見えない月の裏側と、地球の関係性について。

 天文学者を父に持つ女子高校生が主人公の、月を巡るSF(少し不思議)系小説。主人公は理科部に間借りする天文部に入部した。この天文部には、昼部と夜部があった。主人公は星や月が良く見える夜部で活動していた。そこには、主人公が恋する先輩も在籍していた。優柔不断が代名詞ともいえる主人公は、悩みながらも打開策を講じていく。
 そんな主人公の高校に、主人公の父の弟子である新米女性研究者が現れ、主人公とその同級生に、研究の手伝いを依頼する。「輝夜姫伝説」にちなんだ課題を出され、主人公はその課題に取り組み、良好な成績を収める。しかし、この女性研究者は大事なことを最後に言う癖があった。その大事なこととは、女性研究者の脳内データが、誤って月に転送されてしまったということだった。
 何とか女性研究者の脳データを取り戻そうと、天文部は奔走する。しかもデータにはタイムリミットがあった。そこで、データそのものを地球に戻すのではなく、レシピデータを地球に持ってくることに。そうすれば、レシピに従ってデータを再構築できる。計算。機材。そして思わぬ人々の協力。果たして結果は?
 さらに、主人公の心を惑わすことがもう一つ。好きだった先輩よりも、課題を一緒に解いてくれていた彼を身近に感じ始めたのだ。優柔不断な主人公の心は揺れる。そんな中、彼がアメリカの大学に留学することが突如として決まり、主人公は決断を迫られる。主人公が選ぶのは、先輩か? 彼か?
 人生において選択は迫られるもの。
 でも、それが一択なら、人は突っ走ることができるのではないか――。

 拝読するだけでも天文学に詳しくなれる一作でした。
 また、キャラクター達が生き生きしていて、皆が一致団結して月にあるデータを取り戻そうとする場面は、読者が一緒になって手に汗握る場面だったと思います。

 是非、御一読下さい。

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