4. 焦熱

 その一言の威力は絶大だった。気づくと俺は膝から崩れ落ちて泣いていた。



「……はあ? 泣きたいのはこっちなんだけど」



 何も言い返せず、俺にはただすすり泣くことしかできない。



「……私達がお前の一番の被害者なのには変わりない。けど私は、あんたの両親だけはどうしても哀れで仕方がないよ。お前の後先考えない身勝手な行動のせいで、散々な目に遭ってるから……」



 え? 母さんと父さんが? 一体何で……



「……だって愛しい一人息子が死んだのに、哀しむことさえも許されないんだよ。『殺人犯の親』『お前らの教育がまずかったせいで親子が殺された』とか何だってネットで騒がれて、遂には顔写真まで晒された。ご近所さんたちにも後ろ指を指されて、家の中にいても嫌がらせの電話が後を絶たないって話よ。あーあー、これはもうじき2人も首をくくるかもなぁ……。悪いのはなのに」



 そんな、俺のせいで2人まで……



「お前って、本っっ当に馬鹿だよね。今のこのご時世、何かちょっとでも変なことをやらかしてしまったらすぐに身内まで叩かれるっていうのに。お前一人だけ逃げ出して楽な方へ、楽な方へ。人の迷惑なんてこれっぽちも考えやしない。

……それなのに、何でそんなお前だけが安らかに、眠るように死んでんだよっ!! 私はお前を一生許さない。何万年だろうと、何億年だろうと、ここで、私たちの受けた仕打ちを何度も何度も追体験してもらう。ママの圧死、パパの焼死、そして私の一酸化炭素中毒……。お前には死後の安寧なんて、絶対に与えてやらないからなっ!! 」




 彼女がそう言い終わった途端、俺は息ができなくなった。


 苦しい、苦しい、苦しい……。そうか、これが一酸化炭素中毒か。


 あんなに幼い女の子が、俺のせいでこんな惨めな死に方をしたのか……。



















 ……涙が止まらなくなった。


















「ごめん、ごめん…………」



「…………今更泣いたって、もう何も帰ってこないんだよ」



 彼女は寂しい目でそう呟くと、深い闇の底へと消えていった。その背中は見ているだけで泣きたくなってしまう程に小さく、また細かった。










               ⦅*⦆










 死ねばもっと、楽になれると思っていたのに。


 死ねばもっと、みんなの役に立てる人間に生まれ変われるかと思っていたのに。








 ああ、くそ。こんなことならもっと…………





























    




――――もっと、頑張ってみたらよかった。

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プレス 瀬古 礼 @rei-seko39

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