後書き、言い訳とよしなしごと




 クトゥルー(クトゥルフ)神話を愛好する方は、一度は夢見たことがあるのではないか、と思います。


「クトゥルー神話の、日本風、あるいは極東風コンバート」


 クトゥルー神話は、アメリカの怪奇小説家、ハワード・ラヴクラフトを中心とした作家たちが、背景設定を共有することで成立した世界観。

 その性質は、根本的に西洋風の幻想世界を土台としたもの。

 人類を破滅へさそう『邪神』や『禁断の知識』、発音の困難な名称、召喚儀式や魔道書にまつわる細かな設定。

 人智を超越した宇宙的な存在、というテーマを持っていても、それを表現する要素は、西洋世界の悪魔や魔術をベースとして形作られています。

 ゆえに、それを日本風、あるいは極東風の世界観に当てはめようとしたとき、どうにもぬぐい切れない違和感がある、そう感じてきました。


 この作品は、これまで国内作家たちが挑んできた軌跡や、「ラヴクラフト・スクール」作家たちの作品に点在する「極東風」要素をあつめて、自分なりにひとつの挑戦をしてみた結果です。




・『屍龍教典』

 田中文雄『邪神たちの2・26』に登場する魔道書。

『ネクロノミコン』の中国語訳。西太后に仕えた宦官がラテン語から中国語に翻訳した。西太后は本書を一読するや顔面蒼白となり、当の宦官を八つ裂きにさせたという逸話を持つ。この設定に後付けしまくって膨らませたのが、本編の案内役となる老宦官と、その語った内容である。

『クトゥルフ神話TRPG』サプリメント『比叡山炎上(エンターブレイン)』では、本書をモチーフにしているとおぼしい元代の魔道書『屍龍経典』が登場し、「清朝末期に再発見」されたとしている。



・フォ=ラン博士(Dr. Fo-Lan)、とその弟

 オーガスト・ダーレスの『The Lair of the Star-Spawn』(邦題は『潜伏するもの』もしくは『羅睺星魔洞』)に登場する、中国の科学者。

 北平(北京)の自宅からチョ=チョ人に拉致され、彼らの崇める邪神、ロイガーとツァールの復活に従事させられていた。世間には殺害された、とされていたが、殺されたのは双子の弟である。

 今作の語り手も、フォ=ラン博士本人ではなく、その弟氏である。影武者人生まっしぐらである。

 ピンイン読みで「Fo-Lan」になる漢字表記を探すも、知識不足もあってなかなか中国人名として適当そうなものの見当がつかず、かなり間に合わせで「霍覽(Huo Lan)」とした。



・膨れ女(Bloated Woman)

「クトゥルー神話作品」となれば“邪神”が登場しなきゃね、と探した結果、やはり「極東風」ということでこれを持ち出した。

 ケイオシアム社が『クトゥルフ神話TRPG(Call of Cthulhu)』にて生み出したこの「化身」である。

『The Goddess of the Black Fan(→ 黒扇娘々)』『The story of the priest Kwan(→ 関子伝)』と、関連設定をむりやり中国風に直してゆくのは疲れたが、女神像の描写はわりと楽しかったです。

 タイトルまで女神の衣の色に左右されたのは、わりと予想外でした。




◆参考作品(敬称略)

田中文雄『邪神たちの2・26』(学研ホラーノベルズ)

オーガスト・W・ダーレス&マーク・スコラー/後藤敏夫(翻訳)『潜伏するもの』(青心社『暗黒神話大系シリーズ クトゥルー 8』収録)

オーガスト・W・ダーレス&マーク・スコラー/江口之隆(翻訳)『羅睺星魔洞』(国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話集』収録)

ロバート・W・チェイムバーズ/大瀧啓裕(翻訳)『魂を屠る者』(創元推理文庫『黄衣の王』収録)

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天は玄く、而して地は黄 武江成緒 @kamorun2018

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