通常、意外性を重視する作品は その衝撃をラストにこそ持ってくるものです。
この作品で用いられているトリックもそう。
本来ならば、最後に種明かしをして我々を驚かせ、物語の幕を下ろすもの。
凡庸な作家ならば、間違いなくそうしたことでしょう。読者にちょっとした驚きを提供した事ですっかり満足してしまい、まさかそれ以上の高みがあるなんて想像しもしないのです。
この方は違います。
話の中盤にトリックの種明かしを済ませてしまい、それを踏み台にして更なる高みを目指そうとしました。それが驚きだけでなく瑞々しい感動をシナリオに付与すること。むしろトリックをセピア色に染まった青春の思い出を披露する為の手段と割り切っている所があります。
トリックそのものはよくある物であろうとも、使い方を工夫することでまったく違った世界を見せることができる。この作品は創作の新しい可能性を我々に示してくれました。
たとえ食材がありふれたものだろうとも、料理人の工夫と技術次第では未知の感動を提供することが出来るのです。例え、これだけ多くの作品があふれた世の中であろうとも。
大切なのは見せ方。そして新しい物を生み出そうとする気概。
それを諦めない気持ちなのだと、再確認させてもらいました。
そのオチはもう知ってるよ。
そんな憎まれ口を叩きガチな貴方にこそ、この話を読んで欲しい。
新時代の創作とは何かを考えさせる名作。