もてあそばれる猿の子のように踊れ

 こーーーれはいいですね、めちゃくちゃ好みでした。話としてはシンプルで、奇妙な頭痛に悩まされる人々を治療する医者の話、で説明がつきます。
 ただし一介の医者ではなく、彼ないし彼女の抱える命題が太い軸となり作品を分厚くしています。まず設定が面白い、三千文字台であることにも驚きつつ、設定の開示タイミングも絶妙で飽きるところがありません。五千文字以内でぐっと詰まっている作品、私の好みとしても百点満点ですね……何食ったら思い付く設定なんでしょう?ドリアンソーダですか?
 神が人を創ったのではなく人が神を作るのではないかという、主軸である命題がとてもいいです。神仏は信仰してくる相手がいなければ成り立たない、つまり無に等しい。ここですね。
 神に挑戦する人間は、いずれ宿願を果たすにせよ、志半ばで折れるにせよ、過程上において神を信じているに等しいわけです。この作品はそれを綺麗に明示してくれます。神になろうとする人間視点、という部分についてかなり面白く読みました。
 細かいディティールの話をすると、ヘッドホンを装着している理由についての伏線回収が非常に良かったです。聴いている二曲は二極と言っても良さそうなほど違うベクトルの音楽で、ここにスケープゴートへの一抹の罪悪感に対する赦しを見出すことにより、またひとつ信仰というものを提示してきます。それでいて「能動的スケープゴート」は主人公自身にもかかっているタイトルに見えました。
 読む人間により、いい意味で解釈に幅が出る作品だと思います。めちゃくちゃ面白かったです。