第19話


「は、はは。そういうことなんですね。」


オレは引きつったような笑みを浮かべる。


そうして、もう一度うさぎちゃんに視線を移した。


うさぎちゃんは「ぐるる・・・。」と低いうなり声をあげるが、襲いかかってくるようなことはないようだ。

オレはゆっくりとうさぎちゃんに向かって手を伸ばした。うさぎちゃんは伸ばされた手をジッと見つめていたが、特に噛みつくこともなかった。


ゆっくりとうさぎちゃんの頭の上に手のひらを乗せる。そして、そのままゆっくりと優しく撫でる。


うさぎちゃんはくすぐったいのか少し身じろぎをしたが、今度はうなり声をあげることもなかった。


そのまま、うさぎちゃんの頭を優しく撫でていると気づいた。特に長い耳の付け根を撫でると気持ちよさそうに目を細めるのだ。


そのうち、オレの手に頭をこすりつけてきた。どうやらよほど撫でられるのが気持ちよかったらしい。さっきまでの警戒心はどこにいったのだろうか。


「まあ。うさぎちゃんったらすっかりカナタさんに懐いてしまったようだわ。」


「ははっ。」


「あたりまえなのーっ。カナタに撫でられたらうっとりしない子はいないの。カナタ、ノエルのことも撫でるの!」


うさぎちゃんを撫でていたらノエルが自分も撫でて欲しいと言い出した。


ノエルのことも撫でてあげたいけれど、今はうさぎちゃんを撫でているからなぁ。うさぎちゃんも気持ちよさそうだし、もう少しオレに心を開いてくれるまで撫でていたいんだけど・・・。


「ノエル。後でゆっくり撫でてあげるから。」


「嫌なの-。今がいいのっ!撫でて!カナタ撫でて!」


ノエルはそう言ってオレの肩にピョンと飛び乗ると、オレの頬に頭をこすりつけてきた。


暖かくふわふわな毛並みがオレの頬に当たる。それとともにお日様のようなふんわりとしたノエルの匂いが香ってくる。


「わかった。撫でるから。」


オレはあいていた左手でノエルの頭を撫でる。いつも、右手で撫でていたから左手で撫でるのは少しだけぎこちなくなってしまう。


「カナタ-。もっと、もっとなのぉ~。」


うっとりと目を閉じたノエルがもっと撫でろと要求してくる。オレは、そのままノエルが最も喜ぶ顎の下を撫で始める。すると、ノエルはゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


「わたしも・・・撫でて。顎のした撫でて。」


「えっ?」


聞き慣れない声が聞こえてきた。あたりを見回してみるが、ここにいるのはアメリーさんとノエルとうさぎちゃんとオレだけだ。


聞こえた声はアメリーさんのものではない。もちろんノエルの声でもない。


だとすると、うさぎちゃんの声だろうか。


「顎のした撫でて。」


もう一度声が聞こえた。オレはうさぎちゃんを見つめると、うさぎちゃんもオレを見つめていた。そうして、視線が合わさるとうさぎちゃんがゆっくりとまばたきをした。


オレはうさぎちゃんの耳の付け根を撫でていた手を動かし、うさぎちゃんの顎の下を撫で始める。


すると、満足したようにうさぎちゃんが目を瞑った。


「うさぎちゃん、気持ちいい?」


「・・・うん。」


うさぎちゃんはオレの問いかけにうっとりとした表情を浮かべながら頷いた。


オレの問いかけに素直に答えてくれるうさぎちゃん。これなら、うさぎちゃんが何を悩んでいるのか今なら答えてくれるかもしれない。


「なにか、困っていることや悩み事はあるの?」


「・・・寂しいの。」


オレが問いかけると、うさぎちゃんはポツリと言葉をこぼした。それは、か細く今にも消え入りそうな声だった。


「え?」


寂しい?


思ってもみなかった言葉がうさぎちゃんから飛び出てきたので驚いてしまった。


まさか寂しかったからだなんて。


「あの、アメリーさん。今までうさぎちゃんはずっと一匹でここにいるんですか?ミルクの味が変わる前もずっと一人でいたんですか?」


「いいえ。少し前までうさぎちゃんのそばにはいつもニャーがいたわ。でも、ニャーは2年前に天寿をまっとうしたの。」


「そうですか。うさぎちゃんは、寂しいって言ってます。ニャーちゃんがいなくなってしまってからずっと寂しかったのではないでしょうか。」


「そう・・・だったの。そうよね。どうして私、気づかなかったのかしら。うさぎちゃんとニャーはずっと一緒だったのに。」


アメリーさんはそう言って涙を一筋流した。仲がよかったうさぎちゃんとニャーちゃんのことを思い出したのだろうか。


でも、天寿をまっとうしたニャーちゃんを呼び戻すわけにはいかない。


うさぎちゃんの新しい友達を増やすのが良いのだろうか。でも、ただ増やしても気が合わないと意味が無いだろう。


「うさぎちゃん。お友達が欲しい?」


オレはうさぎちゃんと視線を合わせてそう尋ねた。うさぎちゃんの性格に合う子を迎えられたらと思ったのだ。


「欲しい。ずっとずっと一緒にいれる友達が欲しいの。」


うさぎちゃんはそう言って俯いてしまった。正直ずっと一緒にいれる友達というのは難しいだろう。


「男性と女性、性別はどちらがいいかな?」


「どっちでもいいの。ずっと一緒にいてくれるなら。」


「種族は?猫がいい?それともうさぎちゃんと同じ種族がいいかな?」


「なんでもいいの。ずっと私と一緒にいてくれるなら。」


どうやら、うさぎちゃんにとって一番大切なことはずっと一緒にいてくれることらしい。


「アメリーさん。うさぎちゃんはずっと一緒にいられる友達を欲しがってます。性別や種族は問わないようです。心当たり、ありますか?」


オレはそばで見守っていたアメリーさんに視線を移すと問いかけた。


アメリーさんはしばらく首を傾げて考え込んでいたようだが、しばらくして顔を上げた。


「そうね・・・。ねえ、もうひとつお願いしてしまって悪いのだけど、はぐれニャーがいたら連れてきてくれないかしら?何匹でもいいわ。うさぎちゃんのお友達にするから。」


アメリーさんはそうオレにお願いしてきた。


というか、はぐれニャーってなんだろうか。




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異世界に転移したら職業無職でした ~どうやら無職はチート職だったようです~ 葉柚 @hayu_uduki

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