この世界に溢れる命のそのすべてに意味があるように

 こーーれはいい、凄くいいですね。まず日本昔話のような民話の空気感が素晴らしいです。独自の手触りがある無二の文章を書かれるなあと前作を読んだ時から思っておりました。
 凄くいい理由は色々あるのですが信仰要素に早速触れさせていただきます。上段で書いた通りに民話、昔話の空気感であり、内容も凄く昔のどこかの農村、という風情です。言うなれば信仰の原型について語られている物語かと思います、めちゃくちゃ興味深く読み込ませていただきまして、「俗信、言い伝え」の類ととりました。
 これ日本人なら絶対はっとするはずなんですよね、猫が顔を洗うと雨が降るとかカラスがなくと人が死ぬとか、なんらかの俗信、迷信を一度は聞いたことがあると思うんですよ。これらの是非は一切関係ないので割愛しますが、こちらの作品からは強くこの匂いを嗅ぎ取りました。非常にいいです、なるほどと唸りました。この発想は私から完全に抜けておりました、日本人なのに悔しい! やられたな……と悔しさまで覚えてしまいましたすみません!
 そしてこの俗信の類、信じていた、信じているという人もけっこう多いのではないかと思います。実際根拠のある俗信もありますし、言いがかりに近かったとしても背景はきちんとあるものが多いです。この作品はそのラインをいきつつ、山に育てられたという、自然の申し子のようなキャラクターも登場し、更に民話性が増してきます。もう神話性と言ってもいいんじゃないかな、古来より日本という国土、自然を恐れ敬い崇める信仰が根付いていると思うんですよ。そこを完璧に現した掌編に思います、素晴らしい物語です。
 それでいて話も文章も読みやすく、ラストでふっと視界を開けさせてくるところも素晴らしいですね。なぜ屋根に猪などの頭を放り投げるのか? という謎にも解答が用意されており、構成力も抜群です。
 飛び去る鳥の力強さ、まさに天に届かんばかりです。深読みかもしれないんですが鳥への信仰も感じました。古事記などにも鳥ってめっちゃ出てくるんですよね、有名なのはヤタガラスかな……。天と地を繋ぐものの象徴としての側面もあると思うんですが、そこを捉えて魂を運ぶ存在ととって崇める信仰、この文脈も含んでいると読みました。これなら月も淋しくないし魂も天へと還ることができるのでしょう。
 畑に愛されているという言い回しも非常に好みです。イコール土に、イコール自然に愛されているともとれて、山の子と波長が合うことにも頷けます。風景の描写も抜群にお上手で、なんかずっと褒めてますね、本当に好きなんですえげつない角度で後ろから急に刺されたんですよ……。
 本当に良い読書体験でした。日本昔ばなしで放送してほしいなー!あの絵柄とあのナレーションで楽しみたいです。