エッセイと物語が調和。まるで学園生活を“体験”しているような気分に…!

 八百比丘尼である教師と、彼女の双子の娘、そして、こちらはごく普通の主人公達が織りなす学園生活を描いた作品。

 学園生活が動き出すのは6話から。語り手であり、主人公でもある少年が登場するのもそこからです。

 軽妙な語り口で綴られる一人称の物語はテンポよく進み、次から次へと読み進められます。主人公を取り巻くクラスメイトたちも個性豊かで、それぞれ名前が歴史上の人物だったり、言動にクセがあったりと、学園生活ならではの明るさや、軽さが感じられました。

 そんな本作ですが、実は物語とエッセイを上手い塩梅で足して2で割ったような作品、というのが私の印象です。
 特に小タイトルが「教養授業」で始まるお話は、八百比丘尼である先生の授業風景を描いています。そこでは事実・歴史問題を始め様々な物事が独自の観点で語られるのですが、まさにそれこそが、本作の特徴であり、最大の魅力です。

 ためになるお話を基本的な知識から順に説明し、それについて作者様の代弁者でもある先生が見解を述べる。しかもその内容は決して押し付けがましいものではなく、あくまでいち意見として述べられており、生徒・読者に考えさせる余地を残してくれます。
 しかもこれが一人称で語られる物語の一部であるために、読んでいる私も授業を聞いているような錯覚に陥りました。おかげで、教養授業1つ1つを読み終えるたびに考えさせられてしまいます…。同時に、自分の中に問題意識が芽生えていることに気付かされるわけですね。終わってみれば、知らないうちに新しい知識と知見を得ている。正しく、濃密な授業を1つ受けたような気分になりました。もちろんそこには、作者様の豊富な知識量と深い考察、読者への配慮があるように思えます。

 そんなエッセイのような「教養授業」と対になるのが、主人公の学園生活。主にこちらに絡んでくるのが八百比丘尼の双子の娘さんたち。双子でありながら性格や特技は真反対という彼女たちが編入してきたところから物語は大きく動き始め、主人公の日常、部活動、学園祭を彩る存在になっていきます。
 保護者引率のお泊りという青春の“お決まり”があったり、少しピンクな描写もあったりと、飽きずに読み進められます。

 そんな学園生活と授業風景が交互に描かれ、緊張と緩和が程よい感覚で波を作ってくれる。だからこそ読みやすい印象を与えてくれ、エッセイ風の授業風景と学園の日常風景、どちらも私の目には魅力的に映りました。

 作者様の確かな知識の元、丁寧かつ没入感をもって描かれる「教養授業」。一方で、物語全体が硬くなり過ぎないよう合間に挟まれる明るく軽妙な学園生活。
 2つが合わさった時、まるで自分も学園生活に迷い込んでしまったような、そんな感覚になってしまう。そんな虚構の感覚(フィクション)を味わうというという意味では、間違いなくファンタジー作品でもありました。

 歴史上の有名人に囲まれた不思議な学園生活を体験しながら、新たな知見を得られる。「読書」を楽しみたい人にこそ是非オススメしたい、素敵な作品です!

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