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屋上についた俺は、さっさと右ポケットに入ったガラケーを取り出して電話に出る。


「もしもし、こちらは『補填部』です。」


『うわ、マジでた。』


声は女性。この反応からして、いたずら電話だろうか。前……というか部活の創設時はよくいたずら電話をかけられたものだ。「やーい」とか「わーい」とか……。ふっ……今思えば懐かしい話だ。


「いたずら電話なら結構ー」


『半信半疑でかけたから驚いただけなの。』


「……そうですか。で、ご依頼はなんですか?」


『……好きな人に告白したいの。それで依頼…したの。』


恋愛系の相談か。初めての案件だし、きちんとできるかどうか不安だけど……。


「分かりました。では、今日の放課後の北館3階、奥の部屋に来てください。」


『奥の部屋……?』


「生物教師の近くにある、階段近くのドアにあります。


そして、電話での会話はここで終わった。ガラケーを閉じて空を見上げる。さっきの依頼のような、ピュアな恋を応援とか、一度やってみたかった仕事だ。とても嬉しい。


「よし、頑張るぞ。」










いつも通りに昼からの授業は寝て過ごした。そして、放課後。今日は掃除当番ではないのですぐ、帰る準備をする。その様子を見た小渕(こぶち)は昼のことをどうなったのか気になっていたのか聞いてきた。


「で、どんな依頼だったんだ?」


「ん?まぁ、結構でかい依頼。」


「でっかいって?」


「そりぁ……プライバシーに関わるぐらい。」


「そっか。」


話を聞いた小渕は、ショルダー鞄を肩にかけて椅子から立ち上がる。


「あ、部活頑張れ!」


「おう。あと、これ。」


「あぁ。ノートか。ありがと。」


ノートを受け取って、自分の教室を出る。廊下が賑やかになっている中、俺はこっそりと目的の場所に向かう。4階から2階に降り、北校舎につながる廊下を歩いて、階段で3階に向かって、自分から向かって右側のすぐそばにあるドアの目の前に立つ。そう、ここが補填部の部室。ここは滅多に使われていない場所で、生徒指導の先生が時々使うだけで、基本は補填部の活動するために使っている。ポケットから鍵を取り出しドアを開ける。入った瞬間、電気をつけて部室を明るくする。部室の中は至ってシンプルにしてある。まず、部屋の中心には大きいオフィステーブルがあって学習椅子が4つ。その奥に、学習机と学習椅子が置いてある。右側には、お茶のポットなど依頼人が来たときに出せるものが置いてあるだけ。そう、ここは……相談室を少し改良したものだ。


「依頼者が来るまで、今日の授業の復習でもしておくか……。」


1限目の授業から6限目までの授業の内容をしっかり復習していく。しかし、小渕のノートは綺麗だわ。先生の話してた内容もメモしてあるし見やすい。聞かなくても、わかる。さらに力が入り、ノート写しと復習に集中する。


「………。」


黙々としていると、ドアを叩く音がなる。ペンを止めた俺は、すぐ様に返事をする。


「どうぞ。入ってください。」


ドアを開けると、依頼主が現れた。……髪の毛はロングで、色は茶髪。顔は整えて、中高の鼻も綺麗に整えていた。誰もが優等生に見えるけど、少しギャルかな。……だが、俺を見た瞬間、顔の表情はさっきまでの時と違い無念の表情を浮かべている。


「……依頼主さん?どうかしましたか?」


「あんたが……この補填部の人?」


「はい、なにか?」


「………。」


依頼に来る人は知らないばかりだから怖い顔とか睨みつけの顔は慣れてるけど……こんな表情をする人は初めてだ。


「あの……私の顔に何かついてますか?」


「いや……補填部の部員があんただとは思わなかったから。」


「……僕のことを知ったような言い回しですが、どこかで会いましたか?」


「同じクラスメイト。覚えてないわけ?」


「……いたような………………いたっけ……?」


「……その反応からして覚えてないのね。」


「イヤー、オボエテマスヨオボエテマスヨ。シラトリサンデスヨネ?」


「違うわよ!須藤佳織(すどうかおり)!誰よ、白鳥(しらとり)さんって!棒読みすな!」


だ、そうです。依頼人だとクラスメイトだと驚いた。あとでどんな人物か小渕に聞いてみよ。


「まぁ、座ってください。飲み物でも出しますので。何がいいですか?」


「紅茶。砂糖多め。」


「…….それ、紅茶の意味」


「何か文句でも?」


「なんでもないです……。」


笑顔の裏を見た気がする。紙パックの紅茶が入ったコップに、できたお湯を投入して紅茶の香りをたたせる。数秒後に紅茶の本来の味がなくなってしまうのではないかと思った。砂糖入りの紅茶を座っている彼女の前に置く。そのあと、自分で淹れた紅茶を置いて座る。


「それで、依頼は恋愛相談ということでお間違いありませんか?」


「えぇ……。」


恋愛相談だけど、例えば、相手との付き合い方、デートプラン、告白プラン……などなどと色々ある。付き合い方、デートプランなどは俺のアドバイスや一緒に考えたりすることで解決することができるが、告白となれば想い人のことを知る必要があったり、告白の場所、告白のカミングアウトのタイミングを一緒に考えたりと結構、時間かかる。


「どんな恋愛相談でしょうか。」


「ええっと……好きな人がいて……その……。」


突然、恥ずかしがってるな……。もしかして。


「告白を手伝って欲しいってことですか?」


首を縦に振る。ということは、告白プランか。難しい相談内容か。じゃ、まずはこの人の『想い人』がどんな人か知る必要がある。


「相手の名前とか分かりますか?」


「……琢磨。」


「はい?もう一度言ってもらっても」


「中原琢磨(なかはらたくま)が好きなの!!」


「……そいつ、誰。」


「関心がなさすぎでしょ……。」


「で、話戻しますけど、告白はいつするか決まってますか?」


「いつするかは決まってないけど……なるべく早くしたい……かな。」


なるべくか……告白の決心はついてないみたいだけど、誰かに取られる前にしたいってやつだな。ルーズリーフにメモをとっていく。


「なるほど……。」


そのあと、彼のことをどういう風に捉えてるのか、どこが好きなのかと色々と質問を繰り返す。一通り、こっちの質問を終えたので今度は逆に俺から質問をする。


「告白することに関してですけど、一つ聞きたいことが。」


「何?」


「その琢磨君があなたに関してどういう風に捉えてるのか知りたいですか?」


これは、自分に対して相手がどんなことを思っているのか。それを事前にすることで脈ありなしも知れることができるし、他の好きな人も聞くことができたりと色々と得する。


「まぁ……一応……。」


「分かりました。ですが、相手にもプライバシーがあるので僕は、深くは聞きません。須藤さんに対してどう思っているのかだけ聞くので。」


「うん。」


「結果によってあなたにショックな報告もあるのでそれだけ覚悟してください。」


「なんで?」


「その人がもし、嫌いとかいう可能性もあるということです。」


「……。」


「今なら変更もできますが……。」


変更というのは、この情報を公開せずに告白の手伝いをするということ。その情報を俺が知ったうえで依頼者が満足するように促す。告白のお手伝いとはこういうのが基本……かな。多分。


「ううん、大丈夫。」


今回は教えても大丈夫ってことか。


「じゃ、依頼成立ということで……。」


そばにあるオフィスチェストの1番上のプリントを2枚、取り出して依頼者が座っている前の机に2枚プリントが見えるように置く。


「なにこれ?」


「活動報告にするための書類と契約によって俺に被害が来ないようにすること。」


このプリントには契約が書かれている。いわば契約書だ。


補填部を甲、依頼者を乙とする。



・依頼における情報開示は、乙だけに公開する。

その際、依頼に関する情報を赤の他人に話すことを禁ずる。


これは人のプライバシーを防ぐためだ。人々が、依頼のことに関わることになると、もしかしたら被害に遭うかもしれないし、最悪、不登校や引きこもりになり得てしまう。それを防ぐためのルール。



・乙と甲の部員はあくまでも赤の他人とする。


仲良くなってしまったら何かしらの誤解を周りに与えてしまう可能性もある。それを防ぐため。


・もし、何かしらの事件(誘拐、事故、殺人)に巻き込まれた際、甲は乙を保証する。


依頼者にトラブルはつきもの。もし、依頼者に何かしらの事件にあった際は必ず助ける。こちらのことが原因もあり得るからだ。


・乙は秘密に活動している甲について、他の人に言うことを禁ずる。言いふらした際、罰金として1万円徴収する。


隠れてやっているので、あまり言いふらしてほしくない。罰金はいわば脅し。実際には取らないけどな。


・上記を破った際は、今後、乙の依頼を一切受け付けない。


どんな依頼でも受けない。他の人が代わりに来たとしてもその人の依頼であれば、ルールを守らないアホと認識する。だって、怖いもん。うん。その人を信用できないもん。


「……意外にしっかりとした契約書ね。」


「当たり前だ。やるからにはちゃんとしてるからな。」


「ええと、ここに名前を書けばいいのかな?」


「そう、そこ。」


署名欄のところに2枚とも名前を書いてもらう。ボールペンで。


「はい、これで契約完了です。」


プリントの端に、穴を開けてファイルにしまって、もう一枚を控えとして須藤に渡す。


「なんか、面白い部活してるんだね。あんた。」


「それは、褒め言葉としてです?嫌味としてです?」


「普通に褒めてるわよ馬鹿。」


「そっすか。」


そして、俺は手を出す。


「これから、よろしくお願いします。」


「よろしく……ってなんで手引っ込めるの!?」


須藤は握手しないといけないと思ったのか、袖を手に巻きつけて握手しようとする。が、俺はすぐさまに引っ込んだ。


「俺のことキモイとあからさまに思ってるって見え見えだからですかね。」


「なっ……!?はっ、そうですよ。あんたのことキモいオタクって思ってましたよ。」


「見た目で判断するのは良くないと思いますけどね。」


「あー言えばこういう。ほんと嫌いだわ。」


「そうですか。僕も嫌いなので安心してください。」


「笑顔でかえさせられると余計腹立つわ……。でも、まぁあとはよろしくね。」


「はい、何かありましたらお電話かけさせていただきます。」


須藤は部室を後にした。さて、やるのは明日からだし今日は帰るか。


「……今日、明日はバイトだったわ。」


本格的にやるのは明後日からだ。






















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