彼と彼女の想い人

江田・K

=放課後の教室で=

 とある公立高校。

 放課後、他に誰もいない教室で、一組の男女が気安くお喋りに興じていた。


「ところでさぁ、アンタ、今日は部活休みなの?」

「なんだよやぶからスティックに」

「ルー大柴おおしばとか古いから。今、令和だよ? 誰もわからないからね!」

「いや、オマエわかってるじゃん」

「あたしくらいになるとそれくらいのインテリジェンスはハブしてるのよ」

「ノリノリじゃねーかっ!」


「――そんなことはどうでもいいの。で、今日の部活は?」

「あるに決まってるだろ。うちのサッカー部が盆と元旦以外に休むわけねーだろが。つっても今日は自主練だけだけどな」

「あら珍しい」

「けどサボるわけにもいかねーし、俺もそろそろいかねーとな」

「あのさ――」

「あんだよ?」

「――会長も、生徒会長も来るかな?」


「会長――いや、キャプテンは今日は駅前で買わないといけないモノがあるとかなんとかで出てこれねえとか、ってグループラインに連絡が来てたぞ」

「そっか。残念だなー。今日こそ見に行こうと思ってたのになあ」

「は?」


「は? って何よ」

「オマエはなんて無謀なオンナなんだ……。そりゃ、は? とかつい口に出るわ。相手はサッカー部のキャプテンと生徒会長を兼務しながら成績も学年一位の超天才だぞ? オマエみたいな芋臭いガキ相手にするわけねーだろーが」

「ちょっっと! 芋臭いって何!? あとガキって? ガキって言った方がガキなんだからね!」

「謎理論やめろや!」


「どっちにしたってキャプテンは今日は来ねーよ!」

「あっそ。じゃあ図書室覗いて帰ろっかなあ」

「ん? オマエ、今日図書委員の当番なのか?」

「ううん。違うよ。新刊入ってないか見に行くだけ。昨日発売日だったのがあるし」

「そっか」

「何よ」

「いやさ、あの、ええとだな」

「……キモ」


「オマエね、なんなのその言い草は。幼馴染でも言っていいことと悪いことがあるだろ」

「じゃあこっちも言わせてもらうけど! 身長180越えてるサッカー部が手指組み合わせてモジモジしてるのは幼馴染とか関係なく、客観的に見てキ・モ・い・の! わかる? わかりなさいよ! ってか、わかれ!!」

「くっ。陰険根暗貧乳眼鏡が」

「うわ、セクハラ」


「セクハラじゃねえから! 圧倒的事実を端的に述べただけだから!!」

「そんな風にデリカシーがないから女子にモテないのよ。アンタ、一応レギュラー候補なんでしょ?」

「だからなんだよ!?」

「一年でレギュラー候補なんて、全国大会ゼンコク常連のうちのサッカー部じゃ珍しいんじゃないの?」

「ああ。そうみたいだな」

「じゃあアンタなんでモテないの!?」

「知らんがな!」


「まあいいわ。アンタがモテない理由とか別にどうでもいいし」

「ほんっとーにオマエは口が悪いよな」

「アンタにだけよ。他の人は普通にしてる」

「なんでだよ」

「アンタに今更気ィ遣う必要isある?」

「……無えな。お互いに皆無だな」

「でしょ?」


「で、アンタ何をモジモジしながらキモい顔で言おうとしてたの?」

「だからキモいって言うなって」

「ハイハイ、話進まないから。……で?」


「あのよ、オマエ図書委員じゃん」

「そうだね」

「今日はあの三年の先輩って――」

「ちょっと待って。……アンタ、どの先輩のこと言ってるわけ? 我が校は各学年それぞれ10クラスありますけれど、ご存知かしら?」

「知っとるわ!」


「じゃあ、もうちょっと具体的なこと言いなさいよ」

「………あの、眼鏡で髪長くて」

「ふんふん」

「ちょっとおっとりしてて」

「ふんふん」

「なんていうか、その」

「胸のめっちゃ大きい?」

「そうその先輩」


「うっわ、最っ低ー。どこで見分けてんのよアンタ。変態? 幼馴染のあたしも流石にドン引きするレベルだわ!!」

「変態じゃねえわ! 健全な男子高校生だわ!! 今のだって完全に誘導尋問じゃねーかっ!!!」

「かーっ、男はどうして皆こぞって胸が好きなのかしらね。脂肪の塊よ? 肩も凝るのよ? あたしはそんな経験、全くないけどね!」

「絶壁だもんなオマエ」

「…………死にたいらしいわね、アンタ」

「ペンケースからカッターナイフ出すのやめろ根暗女!」

「チッ、しょうがないわね。今回に限り、勘弁してあげるわ」

「おっ、おう」

「次に言ったらコロすからね」

「わ、わかった。肝に銘じておく」


「それで、しかたないから話を戻してあげるけど、せんぱいがどうかしたの?」

「あの先輩、今日も居るかな?」

「だいたい毎日、当番じゃなくても図書室にいるけど、せんぱい今日は来れないって言ってたよ。なんか約束があるとかで。昨日あたし当番だっんだけど、お話してた時にそう言ってたの」

「マジかよいねえのかよ。ちらっとでも顔見てから部活行こうと思ってたのに」


「え」


「え、ってなんだよ」

「アンタ、せんぱいのこと狙ってんの? 身の程知らずって言葉知ってる!? いくらサッカー部期待の新人ルーキーだとしても、変態ゴリラマッチョでしょアンタ。あの超絶美人のせんぱいと釣り合うとでも本気で思ってるわけ? 一回病院行く? なんなら付き添うよ?」

「オマエはどれだけ口が悪りいんだ……」

「だからアンタにだけだからコレ。普段は大人しくしてるわ」

「おう。赤の他人にソレやったらキレられるじゃ済まねえぞ」

「知ってる。だから普段は手加減してるの」

「じゃあ俺にもその手加減とやらを少しは加えてやってくれ」

「えっ?」

「えっ?」


「……話、続けていいよ~」

「この女は……。だいたいだな、オマエだってキャプテン狙いじゃねーか? どう考えても無理ゲーだし負け確じゃねーか!」

「ほっといてよ。あたしの勝手でしょ!」

「じゃあオレのこともとやかく言うなよ!」

「……!」

「……!」


「ていうかさ、協力しない?」

「あん? 協力?」

「アンタはせんぱいが好き」

「いや、好きって」

「嫌いなの?」

「…………好きだけど」

「うわ、照れ顔キモーい」

「キモい言うな。で?」

「で、あたしは会長のことが好きじゃん。だからさ」


「あ、お互いに情報交換してどっちも上手いことやろうってことか!」

「おお、脳筋ノーキンの割には察しがよろしい」

「オマエには悪態をく以外にできることは無いのか?」

「今、素晴らしい提案をしたでしょうよ」

「あー言えばこー言うやつだな本当に」


「上手くすればダブルデートとかできるかもしれないじゃん?」

「おお! いいなソレ!」

「でっしょー!」

「よしよし、じゃあとりあえず手持ちの情報を共有できるように」

「あ、LINE交換しとこっか?」

「そーだな」

「っていうか、アンタのLINE知らなかったっけ?」

「ケータイ番号は知ってるから自動で出てくるはずなんだけどな」

「あー、あたしあの機能あんまり好きじゃないからOFFってるのよねー」

「変にセキュリティ意識高いよなオマエ」

「女の子は常に自分の身を護らないとね。いつか理想の王子様に見初められるまではねっ!」

「あー、はいはい。わかったわかった」

「スルーしないでよ!」

「照れるならやるなよバカ。オレは部活行かなきゃならねーんだから」

「う・る・さ・い! じゃあさっさとスマホ出しなさいよね。せんぱいもいないし、図書室寄らずにダッシュで直行すれば間に合うでしょ」

「まあな……。んで、どうしたらいいんだ?」

「ふるふるで」

「は? なんて?」

「まさかアンタ、知らないの? マジで高校生? 機械音痴とかいう以前の問題なんだけど。もしかしてアンタ、昭和のオッサンなの?」

「オマエは全ての昭和のオッサンに謝れ」


「――はいオッケー。ふたりだけしかいないけど、一応グループ作ってみた」

「互いの恋をサポートする会、ってオマエ」

「その通りだからいいじゃない」

「いいけど、ちょっと恥ずかしいな」

「人を好きになるのが恥ずかしいこと?」

「…………オマエ、ごくたまにだけどすっげえいいこと言うよな」

「あたしはいつも良いことか正しいことしか言ってません」

「わかったわかった」


「とにかく今後は逐一、これでお互いに情報を伝えあっていきましょ。って、あら? LINEきた。せんぱいから。珍し」

「どうしたどうした?」

「コラァ! 女子のスマホを覗くな! デリカシーないわね! だからモテないのよアンタ!」

「アッハイサーセン」

「ちょっと待ってなさいよね」


「…………ねえ、アンタ」

「なんだよ?」

「生徒会長、今日どこに行くって?」

「何か買う、って何買うとか知ってる?」

「知らんけど」

「あのさ、せんぱいから今、LINEきてさ」

「おう」

「なんか、のカフェにいるみたいなんだけどね」

「おう」


「告白された。どうしよう、って。でね、その相手っていうのが――」


「……えっ?」

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彼と彼女の想い人 江田・K @kouda-kei

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