新時代を築くべく志した最強の人斬り侍が行く異世界転生譚
ポメラニアン
序章 -人斬り侍、異世界を行く-
第1話 -最強の人斬り侍-
時代は幕末、新時代を築くため奮起した最後の侍達の中にある一人の男がいた。
刀を抜き、今にも斬り合いが始まりそうな緊張状態の中一人の侍が問いかける。
「世を嘆き、世を変えようと奮起する気持ちもわかる」
「だが、暴力で開くその道に大義はあるのか!!」
「拙者は、もう人を斬りたくはない」
揺さぶりをかけているのであろうが、それは無駄だ。
「人を斬りたくないのであれば、ここには近寄らないことだが……」
「その目」
「何人も斬り捨てて血を浴びただろう刀が嬉しそうに飢えている狂気の目だ」
「ふっふ……」
「あああっはっはっは」
「こりゃいい」
狂ったように肩を震わせ目を大きく開く。
きっと、使命だの大義だのに躍らされ人を斬る無情な優越感に自身を見失った哀れな男なのだろう。
「降参してください」
「こちらは15人」
「今時武士道なんて流行らないですよ?」
「対して拙者は1人……」
「見捨てられたんだよ!」
「お前の忠義を尽くすべきとした飼い主にな!!」
今日の得物は、いつになく吠える。
「言葉で躍らせれば……某をいともたやすく斬れると思っているようだな?」
「だが、その目論見、見当違いも甚だしい」
「は?」
「拙者が見捨てられたなどというのはどうでも良いこと」
「とても些細なことだ……」
「ここで、一つの真実を申すなら」
ゆっくりと刀を収め低姿勢を取った。
そして、灯された屋内の火と暗がりを仄かに照らす月明かりが消えた。
その時、地面を強く蹴り2足で間合いに入る。
釼崎護剣流、肆の奥義。
斬雷之一閃(ざんらいのいっせん)。
「主らを狩りとるのも容易ということだ」
話していた男は胴を二つにし血をまき散らす。
後ろに控えている連中も前にいた人間が一瞬の内にやられたことに気づき斬り合いが始まる。
だが、それは一方的な戦いの幕開けだった。
切り伏せた男の脇差を手に取り目の前を行く人間に投げ脳天を突き抜く。
そこで続く二人の刃を寸でのところで避け、斬り裂いた。
おびただしい血が流れ、後に続く4人が周りを囲い一斉に斬りかかるも跳躍し天井を蹴った勢いで一人、刀を下ろした先で逆刃にして一人。
崩れ落ちる二人の刀を手に取り投げる。
殺されまいと必死に避けた隙にもう一人。
そこを逃すまいと背に忍び寄る殺気を感じ姿勢を低くして斬撃を避け、回転する。
釼崎護剣流、陸の奥義。
旋乱剣花(せんらんけんか)。
刀についた血を振り払うように高速で回転し瞬きをするうちに5回斬りつける奥義。
「ば、ばけものぉおお!!」
「くそおおおお!!!」
自暴自棄になり震える体で振るう刃は鈍い。
峰で受け止め鍔に切っ先を走らせ衝撃を与える。
目の前の人間の刀は弾かれ、無防備となった時血しぶきが舞う。
「早まらないでくださいよ?」
「この方は、とてもやばい人のようです」
堂々とした刀を構える佇まいであるが、まだ年端もいかない優男が現れる。
その男からぴりぴりとした隠された殺気を肌で感じ、緊張が走る。
こいつはできる。
天井に着いた血が滴りおちた時。
刀がぶつかり合い火花を散らす。
避けて互いの最適な間合いを取り合う駆け引きが始まる。
蹴りを入れられ畳に倒れる。
「いまだ!!」
「だめです!!!」
そんな言葉もむなしく、隙とみた後ろに続く人間が不用意に切りかかった。
無残にも足を斬られ血が吹き荒れる。
咄嗟に立ち上がりやつの刀を防ぐついでに斬り捨て奥義、旋乱剣花をお見舞いするも高速で繰り出した5連撃は、斬り伏せた敵を横目にして見事に防がれた。
「やるじゃないか」
「あなたこそ」
こんなに斬り合うのは久しぶりだ。
できるなら、もっと違う形で相まみえたかった。
人数もだいぶ減り、姿勢を低くして目の前の男達の命を掻っ攫うため攻勢に出る。
空を斬る音と刀がぶつかり合う音が悲し気な音を奏でる。
渾身の突き。
奴の守りをはじいたとき腹に強い衝撃が走る。
蹴られたのだ。
勢い余り2階から転げ落ち着地する。
それに続き優男も2階から降りて再び斬り合う。
その斬り合いに決着は着かず刀がぼろぼろになるまで続いた。
「いたぞ!!」
「こっちだ」
「っち、増援か」
「刀もだめになっってしまったしここらへんで失礼する」
「逃がしませんよ?!」
こちらへと踏み込もうとしたとき釜戸から拝借してきた灰の入った袋を投げつけ斬らせる。
「な?!」
盛大に巻き上がる粉が目に入り動けない様子だ。
立ち去り、追っ手を切り伏せ今日を凌いだ京都の夜。
その後、倒幕は成り戊辰戦争にて最後に振るわれた刀。
終結した三か月後に不治の病により戦地にて命の幕を閉じるのだった。
赤き世に生まれて早々、二十と一。
刀一つで新しき世を作らんと大義に奮闘するも運命の大きな力には抗えず、座して眠る十五夜の月。
主なしに己が道を貫かんとするも鬼の人斬り、死神の剣と名を付けられ償えない罪を背負い未練を残す一生。
誰に読まれるでもない辞世の句。
きっと一人で死ぬ、寂しい最後はせめてもの罪滅ぼしなのだろう。
叶わぬ願い。
できることなら……多くの人を殺した手を洗い流したい。
ゆっくりと目を閉じ地獄の門をくぐる人斬り。
さわやかな風が吹き抜け陽光が瞼を容赦なく焼き付ける。
「ここは……」
頭が痛い、一体何が起きたのか。
しかし、見たことのない草木、見たことない土地、見たことのない鳥。
某の命を狙う輩に拉致され島流しにでもあったのだろうか。
いや、島流しにするくらいなら早々に斬り捨てているだろう。
あまりにもきれいな光景を前に羽ばたく鳥へと手を伸ばしたその時。
「リーン」
奇妙奇怪な音をして目の前に薄い板が現れた。
咄嗟に反応し刀を握る。
いつでも抜刀を繰り出せる体制に持ってきて謎の板を注視する。
「?!」
さらに奇妙奇怪なことに板は一定の距離を保ちながらついてくるのだ。
「なんじゃこれは?!」
謎の板をあわてて斬るも手ごたえがなく、まるで空を斬るように刀が通り過ぎるのみだった。
だが、さっき感じた感触は一体何なんだと背筋を凍らせる。
そして、手を恐る恐る伸ばして触ろうとする。
まるで猫が未知の物体に猫パンチを繰り出すような滑稽な侍の姿がそこにはあった。
再び触れた瞬間。
「リーン!」
「ウィーン!」
聞きなれない音が再びなり始めより震える。
すると奇妙奇怪奇天烈摩訶不思議な板よりなにやら細かな文字が書かれているのが分かった。
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