第3話 -人斬り侍初めての実戦-

 刀を抜いて、構える。

周りにうごめく魔物たちは、どこから攻め入ろうかとこちらを伺う。


よくあることだ。


京都で新選組から逃げる維新志士を護衛する夜。


取り囲まれ、たくさんの視線が交錯し殺気が飛び交う。


だが……殺気を漂わせるなど、ここから攻撃をするぞと、わざわざ教えてくれるようなもの。


有象無象が刀を握ったところで、そう易々と斬られるような修行はしていない。


後方の草むらからさっと飛び出し一直線に走ってくる。


そして、目の前に飛び出す一匹の狼は、左右に動き攻撃の手を隠すように移動する。


甘い。


おのずと一直線に走る狼が速く到達する。


「フィリア殿、許せ」


「え?」


背にいるフィリアの膝関節に蹴りを入れこけさせる。


「んぎゃ!」


倒れた態勢により背後より来る狼を串刺にし切り払う。


死体を他の狼へと投げつけ左右に動く狼がこちらへと牙を向けたその時、口元から胴体へ一閃。


一秒もかからない刹那の時。


流れるように殺しを行う。


どうやら腕は、鈍ってなどいないようだ。


もっとも……敵は狼ではあったがな。


動揺し、立ちすくむ狼。

一匹が吠え、こちらへと一直線にとびかかってきたところを上段に構えた刀が容赦なくとらえ二つになるのを見届けた。


「いたた……え?! もう三匹も死んでるんで────ふぎゅ!」


そして、残りの狼が三方向より同時に迫り、上体を起こしたフィリアをもう一度伏せさせた。


回転斬り。


片足を軸に一回転し、刃を振るう。

釼崎護剣流、陸の奥義。旋乱剣花の基礎の一太刀。


迫った狼の首は落ち。


戦いの幕が閉じる。


「怪我はないでござるか? フィリア殿……フィリア殿?!」


「んう~……伏せてほしいとか、ありましたら言ってくだされば私だって邪魔にならないように動きます! こかされて最後には膝で踏まれるなんて思いませんでした!」


「す、すまぬでござる……」


「はぁ、ちょっとびっくりしすぎて文句しか言ってないですけど……わたしこそ、すみません。おかげで助かりました」


土埃を払い立ち上がるフィリア。


咄嗟に回転斬りをしてしまったが幸い、後方にあった荷車まで斬らずに済んだようだ。


「うむ、今度からはなるべく伝えるよう心掛けるでござるよ」


「おねがいしますね」


狼……みーあ・らくーんという名前の獣を斬り殺した後荷車を引く準備をしたところで何やら狼の死体でなにかをしているフィリア。


「何をしているのでござるか?」


「え? こうして討伐した魔物の使えそうな部分を解体しているんですよ」


「どうしてそのようなことを?」


「そうですねぇ……このミーア・ラクーンですと牙で解毒薬の素材が作れるのでそこそこの値段で買い取ってもらえます。それに討伐依頼が出てましたら討伐証明ということで報奨金が出るかもしれないので念のためです!」


「そうか、狼の牙は売れるのでござるな?」


「とりあえず、そうです! でも、討伐証明が必要なほどの魔物は、もっと強い魔物の場合が多いのですけど……たまに、こういうミーア・ラクーンなんかの魔物が依頼として出されているので逃さないように要チェックですね!」


たまたま、倒した野生の動物でお金がもらえる変な決まり事を聞き、いまいち理解ができずにいる。


狼の牙も取り終えたところで荷車を引っ張り、岩塩の採掘場所へと向かった。


小高く、今まで通った道を見渡せるリンサイテスの町まで一望できるほどの高いところまで登ったところだ。


まだ山の6分の1も登りきってない。


そこで、洞窟が点々とあり、中に入る。


「さて、ここが岩塩の採掘場です!」


「フィリア殿は物知りでござるな」


「昔、お母さまがミーア鉱山のお話をしてくださったのを記憶していたおかげです。あとは依頼の前情報ですね」


中は暗く、奥まで入るには灯りが必要なほどに暗く寒い。


洞窟の中に光が差し込まなくなった時、フィリア殿が何かをつぶやいた。


「天翔の導き、光をこの手に闇を照らせ。ルーチェ・ルシエイト」


難解な呪文のような言葉を発した瞬間杖の先に丸い明りが現れた。


「この杖は灯台として機能する物でござったか!」


「いえ、これは炎の魔法の一つですよ」


「魔法とは、便利なものでござるな……」


「そうですね。生活をするうえで必要ないという方もいらっしゃいますけれど私は、魔法ってたくさんの人の生活を豊かにする架け橋だと思ってます」


「ふむ~、フィリア殿は時折難しいことを考えていて某にはついていけぬでござるよ」


「あはは……冬真さんも考えてみたらいかがですか?」


「んにゃ! 某が頭を使うと茶が湧かせそうだ。知恵熱をだして倒れてしまうでござるよ」


「最初は、難しいかもしれないですけど考えてみるというのも楽しいんですよ!」


「フィリア殿の人々の生活を豊かにするという考えは好きでござる。某もそうありたいと剣をとったまではいいが……うまくいかないでござるな」


そうこう、話してるうちに目的の地点までついたようだ。


「なんと綺麗な……」


「これが岩塩ですよ」


黒く見える岩に無数の白い塊や白い壁でできたものがごつごつと一面を覆いつくしている。


そして、フィリアが持つ杖の先に現れた灯りによって、その景色はより幻想さを増していた。


「フィリア殿……これはすごいでござるな」


「初めて見ると綺麗ですよね! 私も昔初めて来たときはとても感動しました」


塩の岩と聞いて、そういったものがあるとは昔聞いたことがあったが、このような綺麗なものであるとは思わなかった。


「これは、本当に塩でござるか?」


「塩ですよ。これから……あった!」


ごそごそっと身に着けている紐の付いた入れ物から二本の柄の形が不思議な小刀を取り出した。


「これで叩いて、岩塩を削って持ち出します。冬真さんも……その武器じゃ難しそうなので私のをもう一本貸しますので集めましょう」


「承知した。こう、打ち付けるような感じで良いのか?」


「そうです! その勢いでどんどん削って持っていきましょう!」


黙々と岩塩を削っては荷車へと運び、手がしびれるような根気のいる作業ではあったが、荷車がいっぱいになるころにはお昼を過ぎていた。


「あぁ、疲れました。もう岩塩なんて見たくないです……見てるだけでもうしょっぱいです」


「なかなか、骨の折れる作業でござる……これは本当に塩なのか……?」


ぺろっと一粒口にしたとき時強烈に口の中の水分が奪われしょっぱさが口の中を暴れまわった。


「うえぇ!っぺっぺ! すっごいしょっぱいでござる……」


「え、食べたのですか?」


「本当に塩なのかと思い……」


「今すぐお水を飲んでください! 喉が焼けちゃいますよ」


「や、焼けるのでござるか? いやでも喉がカラカラでござる……」


手持ちの水筒がないためフィリアの持っていた革袋にはいった水をもらい難を逃れた。


「かたじけない……」


「私も、この塩の塊を初めて見た時はペロッと口にしてひどい目にあいましたからね。さてと、一旦休憩にしてあと一息集めたら帰りましょう」


「そうでござるな」


荷車を見ると削り出した岩塩が積みあがっていった。


日も真上を超えたようで、暗くなる前に町に着くとなると残された時間もそう長くはない。


休憩を終えて黙々と岩塩を取り荷車にいっぱい乗せた時には、日も傾いていた。


岩塩をしっかりと紐で固定し、ミーア鉱山を後にする。


空は茜色に染まり、先ほどまで岩を叩いていた手がいまだにじんじんするのを感じながら重い荷車を二人で力を合わせて引く。


順調に、歩みを進めリンサイテスの町まであと半分といったところで異変に気付いた。


一、二、三……何人だ。


今朝出会った獣ではない。


明らかに人のものの気配だ。


荷車を押して周りを注意深く確認していると、目の前に4人の男が現れる。

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新時代を築くべく志した最強の人斬り侍が行く異世界転生譚 ポメラニアン @shibainu04

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