第6話 -傭兵能力試験-
呼吸を整える。
身体は無駄な力を入れず、必要最小限の力にとどめる。
まだ釼崎護剣流で培った日々は、体に染みついていた。
世のため人のためと剣を振るい、いつかこの動乱の時代が終われば皆が笑っていられる世の中になると信じていた。
そう信じて人を斬ることも仕方なしと割り切り、己の信じる正義が絶対だと疑わず皆一様に大義を抱え、思想の相反する敵と血を流し合った。
だが、ふたを開けてみたらどうだろうか。己の剣で流した血は、流れてしまった命は、その理想の代償のため失うに足るものだったのか。
命を奪うということは、人ひとり、もしくはそれ以上の人たちの幸せを奪うことなのだと知った時……
遅かった。
結局、あの時に掲げてた理想とやらは、ただの自己満足に過ぎず、いたずらに平和だった世を荒らしたに過ぎなかった。
人殺しの道具で世の中を変えるなど、夢物語も良いところだ。
奇々怪々な呪文を唱え水色の人が地面から現れる様を見て、世の中は変わったのだなと驚く。
「今の時代、地面から水色の人間が生えてくる時代なのだな……」
「はじめ!!」と合図が広間に反響しダミー人形が動き出す。
空中に印が現れ、火が噴き出す。
きっと拙者のあずかり知らぬ飛び道具の類なのだろう。
だが、銃よりは読みやすい。
印はこちらを向いておりどこに着弾するのかは一目瞭然。
範囲も広く、動きも鈍いため避けるのは造作もない。
得意の縮地で一足、二足とかるく飛び避ける。
そして、ダミー人形へと近づき間合いに入った。
刀を上段から振り下ろし盾にあたる。
金属にはとても見えないが、金属音が鳴り響く。
それより先を斬り裂くことができない感触を確かめ手元を緩めて刀を戻し突きに入る。
するとダミー人形は後ろへと仰け反った。
隙あり! 刀は剣と盾の隙間をぬぐいダミー人形を捉え綺麗な水しぶきを上げて消え去った。
「「「おお!」」」
歓声が聞こえた後に青白い光が再び地面に出現しダミー人形が大きな剣をもって現れた。
斬馬刀だろうか……だが肩幅もありそうな大剣を背から取り出して構え、こちらへと切りかかるダミー人形。
油でもまとっているのか水の大剣に炎をまとわせ勢いよく振り周りながらこちらへと斬りかかる。
大剣を受け止めようにも強くはじかれ近づけずに後ろへと後退した。
だが、回転を加えた大剣をこちらへと向け振り下ろした。
そこで踏み込み、切り上げようとするが大剣を打ち付けた地面から炎が飛び出し間一髪それを回避する。
魔法というやつか、実に厄介だ。
攻撃の手数が通常の斬り合いの手段を狭め近くにいようと離れていようとお構いなしにこちらを攻撃してくる。
その戦闘方法は刀を扱う侍にとって銃と同等の恐ろしさをもっているように感じる。
二度目の攻勢にでてくるダミー人形。
大剣をぐるぐると振り回し速度を上げる。振り回す範囲が俺の間合いだといわんばかりに牽制する様は、要塞かと感じてしまうほどに驚異だ。
だが、それは悪手だ。
どこから攻撃が来るのか、一瞬で判断がつく攻撃など、避けてくださいと言っているようなもの。
大剣を振り下ろす、それを目前で避け地面から炎が浮き出るのを確認した。
範囲はこのくらいだろう。
一歩引かず前へと飛び、飛ぶ次いでに首元に刃を入れダミー人形を倒した。
「二人目!」
次に現れたのは槍を持ったダミー人形だった。
刀を扱う某にとって槍を攻撃手段に持つ敵を相手にするのは不利だ。
間合いが違うため常に外側からの突きで攻撃を受け成すすべなく戦闘が終了する。
そんな光景を幾度となく見てきた。
だが、甘い。
槍は刀と違い、間合いの長さでは勝るもののとりまわす速さではどうしても刀の方が上だ。
縮地で一気に槍の間合いへと入り刃の入らないところへとくる。
そして、横なぎにダミー人形を斬ろうとしたその時だ。
手の平から何かが吹き荒れ体にあたり大きく後ろへと飛ばされる。
「なんだ?!」
水だ。
手で当たったところの感触を確かめると水が当たったのがよく分かった。
魔法というのは、本当に厄介だな。
異国の人を敵に回してしまった時、この魔法とやらを攻略しないことには日本に未来はないだろう。
このような敵と対面した状況で切り抜ける手段など皆無。
間合いを抜けて斬りかかったとしても、また同じような戦法で態勢を崩されたら、こちらが槍の餌食になってしまう。
槍の突きが雨のように襲ってくる。その上、追い打ちをかけるように水の魔法が手のひらより現れ、突きと組み合わせながらやってくるため厄介だ。
あの槍……
よし、腹をくくり攻勢に出る。
素早い突き攻撃を刀で受け流し間合いに入る。そして手のひらから水の魔法が勢いよく射出されそうなところを見越して槍を握り、地面へとたたきつけ足場にする。
ダミー人形は怯み、水の魔法の軌道がズレ、外れた。
そして、勢いよく頭上へと飛びダミー人形へと縦斬りをお見舞いして決着がついた。
「三人目!」
その調子で斬り続けること25分経過、体力もそろそろ厳しくなってきた。
だんだんと、ダミー人形の難易度も上がっているようで10人、15人、20人と10人を過ぎたあたりで5人ずつ斬っていく毎に敵の力が増していった。
そして、40人目。
長剣を持つダミー人形。
息が上がる。鼓動が速くなる。
心臓から送り出される血液が全身をめぐり脈打つ感触を心で感じる。
互いに出方を伺い、ゆっくりと近づく。
先に動き出したのは、ダミー人形だ。
稲妻のような音をたて俊足とも呼べる速度で斬りつけてきた。
金属を殴りつけるような大きな音をさせながら刀で受け止める。
とてつもない威力と速さだ。
そして、そのダミー人形は、勢い余って後ろへと駆け抜けていった。
「まるで、電光石火でござるな」
拙者の縮地より速い。
電光石火のごとき当て逃げは、後ろへと抜けていき勢いと重みのある攻撃を何度も繰り出してくる。
その都度、目の端でとらえた剣に刀で対応して受け流す。
くそ……そろそろ足も疲れて震えてきてしまった。
その時、自身の心にとげが刺さるような何かを感じた。
疲れて震えてきた?……
これが戦場でないことをいいことに少し気が緩んでいるのではないか?
さっきから敵の攻撃を受けても衝撃と痛みが走る程度で体には何の害もない。
ならばと無茶な攻撃手段に出て魔法を扱う敵に対して斬っては捨て、斬っては捨てと攻略できていた。
ここへきて疲れているからと言い訳をつけて敗けたとあれば……
幕末の京都で新選組の浪士達と斬り合った夜に拙者の首から上はもうなかっただろうな。
次の攻撃が来る。
落雷のような大きな音、目にも止まらぬ速さ。
刀を収め地面を蹴り上げ身を捻り空中で勢いを溜める。
捉えた。
釼崎護剣流、奥義。
「天雷一閃(てんらいいっせん)!!!」
身を捻り極限にまで勢いを溜めて繰り出す高速の抜刀。
身体の動きを抜刀の速さに近づけることでより速い居合斬りを可能とした釼崎護剣流の必殺術。
目の端でも捉えることのできない刃は、斬られたことに気づくことかなわず刀を収めた時に勝負が決していることを知らせる無慈悲な殺人術。
この技を食らいはじけ飛ぶ、ダミー人形。
「四十人目!!!!」
「終了!!」
その時、終了の合図とともにいつの間にか現れていた野次馬達の歓声が響いた。
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