第3話 -侍と少女-
どうやら街道沿いに出られたようだ。
歩いていればいつかは人にも会えるだろう。
長く歩いていたため少し休憩しようとした時、突如として現れた馬の音に希望で身を震わせ再度根気よく歩き出す。
目覚めてからどうも違和感がある。
いうなれば某は、病を患っておりこれだけの距離を歩くだけの体力もなかったはずなのだ。
咳はとまらず熱も引かない。
おまけに体はだるかった。
そんな状態が続いていたはずなのにとても体が軽い。
まるで戊辰戦争前の状態であるかのようだ。
聞こえてきた馬の音は思った以上にあわただしい。
ぴりぴりしたような雰囲気が平和に誰かと会える状況ではないことを物語る。
複数の馬にまたがる奇妙奇怪な一団と供に訪れ馬車は横転した。
御者は投げ出されこちらへと勢いよく転がってくる。
「大丈夫か?!」
「~~~~~?」
「拙者は、釼崎 冬真と申す者」
「いかがされたか!」
「~~~~~~~?」
「なにを話されてるのか! はっきりと話を!」
「……」
御者は倒れ、そのまま気絶したようだった。
横転した馬車からは、細く白い綺麗な杖を持った一人の娘が出てきて逃げようとするも馬にまたがる怪しげな連中に囲まれてしまう。
異国の者なのか、娘の髪は黄金に染まっており瞳は赤いように見える。
対して娘を取り巻く男たちは大柄な人物3人と小柄な人物2人で構成され今までに見たことのないほどの大男だ。
「~~~~~!!」
娘がこちらを見て叫ぶ。
やはり、なにを話ているのかまったく理解できない。
状況からして野盗におそわれた哀れな商売人と、その娘といったところだろう。
これは、捨ておくわけにもいくまい。
「某は、釼崎 冬真!」
「馬鹿な真似はやめて早々に立ち去るがよい!!」
「~~~~~~?」
「~~~~!!!」
「~~~~~~~~?!」
何かしゃべり、笑っている様子だ。
その様子はたとえ何を言っているのかわからなかったとしてもこちらをみて嘲笑しているのは確かだろう。
娘は取り押さえられ、切羽詰まった状況になる。
すると馬にまたがった野盗の一人が大きな斧を振りかぶりこちらへと攻撃をしかけてきた。
「っく……後悔は、すまいな?」
やむを得ない。
刀に手をかけ、縮地の姿勢を取る。
振りかぶり繰り出された斧の攻撃を避け野盗に刃が届く。
「1人……」
「~~~~~~~?!」
「~~~~~!!!!」
もうひとりが両刃の直刀を持ちこちらへと向けて振りかぶろうとする。
動きが鈍く、振りかぶるより早くもう一人の野盗を二つに斬った。
「2人目」
「~~~~~???」
「お主ら、降参するなら今のうちでござるよ? 拙者も好きで人を斬るわけではござらぬ故……今、その娘から薄汚い手を離せば見逃してやる!」
一歩、また一歩、と前へ出る。
するとおびえたような表情で手のひらを前に出し何かを構える。
その途端に手のひらから空気のような何かが集まり、飛び出してきた。
「は?!!」
咄嗟に高速で飛んでくるなぞの物体に刀をかざして身を守る。
強い衝撃で仰け反るが、特に問題ない。
「つぶてかなにかの類か!!! 容赦はせぬぞ!!」
「~~~~?!」
「~~~~~!!!!」
残った野盗たちは、こちらが刀を構えて走り込むとなにかを言って馬にまたがり颯爽と逃げていった。
倒れていた娘は、ぽかんとした顔をしながらその場に座っていたので手を差し伸べる。
「立てるか?」
するとぼそっとなにかをつぶやいたあとに何をしゃべっているのか理解できない言葉で話し始めた。
「~~~~? ~~~~~!! ~~~~~~~~~! ~~~~~~? ~~~~~~~~!」
本当になにを言っているのかわからない。
そしてようやくわかった。
さっきの野盗と言い御者と言い、なにを話ているのか聞き取れなかったのではない。
知らない言葉を話しているのだということにようやく気が付く。
日本語のなまりではなかったようだ。
「すまぬ…… きっと拙者は、お主おたちの言葉を理解できない」
そして何かを考えこんだ娘は先ほどの野盗と同じような姿勢で手を振りかざす。
なんだ?!
一歩下がり身構える。
娘の手の前に幾重にも重なる奇妙奇怪な印が現れ、首元になにかを埋め込むようにさすった。
「あの……聞こえますか?」
聞こえる。
先ほどまでなにをしゃべっているのかわからなかった娘から日本語が聞こえる。
「ああ、聞こえるがこれは一体どういう絡繰りなのだ」
「絡繰り……いえ、言語解析の魔術式で、私たちの言葉をつかってあなたの言葉を模倣し伝達しているだけですよ!」
「模倣? 伝達……?」
「私は、フィリア・ルーンネルト! ここから近くの町のリンサイテスで傭兵をしています。気軽にフィリアと呼んでください。危ないところを助けてくれて、とても感謝しています!!」
ふりあ、るんねると?……
その『ふいりあるんねると』というのが名か!
聞きなれない不思議な名前だ。
しかし、名前もそうなのだが……
彼女の外見は、耳が長く、ぱっちりとした目はどこか幼さを感じさせる。
金色の長い髪と着物ではない変わった服装と見慣れぬ程の大きな胸……
南蛮人であるのはわかっていたが外見をよく見て実感が湧いた。
御者もそうだが、近くの町の名前もなんだかおかしい。
ここは、日本ではないのだろうか。
「拙者は、釼崎 冬真(けんざき とうま)と申す。各地を転々と旅するただの浪人だ」
「釼崎 冬真(けんざき とうま)…… なんだか変わったお名前ですね。ああ! ごめんなさい」
変わった名前、確かに釼崎などという苗字は他では聞いたことがないな。
「いや、確かに珍しい名ではあるからな。特に気にはならない」
それよりも数々の聞きなれない名前と言葉、経験外の出来事が多く頭で茶を沸かせそうなほどの知恵熱を発生させるのではないかと少し疲れた。
「とりあえず考えるより先に、この惨状を何とかせねばな」
「ああ……そうですね」
御者を起こし、荷台から荷物を移して横転した馬車を起こす。
3人だけの作業のため時間がかかり馬車を元の走れる態勢へと戻すころには日も傾きつつあった。
御者と話すことができず悪戦苦闘していると、フィリアが先ほど自身の喉元に何かを当てたように冬真にも同様のことをした。
御者と話せるようになりこれまた驚く冬真。
「よ、よし……ひとまずは大丈夫そうだな」
「お二人とも、命まで助けていただいた上に荷物を守っていただきありがとうございます! 依頼未達成のため報酬は、残念ながらお支払いすることはございませんが、ほんの気持ちだけでもお支払いさせていただきます」
「ありがとうございます! ですが私も不覚をとってしまいました……」
「そして通りすがりの……」
「某は、釼崎 冬真(けんざき とうま)だ」
「冬真様もありがとうございます!」
「いやなに、武士として当然のことをしたまで」
「ブシ? というのは一体何なのか存じ上げませんが本当にありがとうございます」
恰幅の良い茶色い髪色の御者は、ぺこりとお辞儀して馬車に乗る。
馬車は無事に動き出し、助けてもらったお礼に冬真は、近くの町のリンサイテスまで乗せてってもらうこととなった。
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