第2話 不思議な絵本

ユナは、店内を見て歩くうちに、ありとあらゆる珍しい本に目を奪われ、そして心を奪われた。

そして、気になった本をひとつひとつ手に取りながら、現実から心が離れてリラックスしていることを実感した。


なんとも言えないような、木のぬくもりを感じさせるような店内の構築に、電球色の明かりがほどよくマッチしていて、とても居心地の良い空間であった。

ゆっくりとした足どりで、ユナは店内の棚の本を心奪われるかのように、一冊一冊に目をやった。

すると、ユナは、一冊の絵本に目が止まった。

まるで吸い寄せられるようにして、ユナはその絵本を手に取りながら表紙をまじまじと眺めた。

ずっしりと、重みのある絵本だった。


表紙は、とても頑丈な作りをしていて、白馬の引く馬車の絵が描かれてあった。

背景には、満月が描かれていて、馬車は、夜の深い深い森の中を走っているようであった。

ユナは、とっさに、その絵本の題名を表紙の中に探した。

しかし、どこにもその絵本の題名は書かれていない。

ユナは、不思議な気持ちを押さえられず、また、その絵本に吸い寄せられるように表紙をめくった。

最初のページには、満月と森の絵が描かれてあった。

そして、こんなことが書かれてあった。


『疲れたあなたへ。』


ユナは、ドキっとした。

なぜかと言えば、自分に対して言われているかのような錯覚を覚えたからである。

それとともに、ユナは、ますますその絵本の中にのめり込んでゆく感覚を覚えた。

そして、次のページをめくると、

森の中を馬車が走っている絵が描かれていた。

そして、その右上にこんな言葉が書かれてあった。

『虚しい日常を離れてみませか?』


まるで自分の心のうちを読まれたような気がした。


そして、ユナは、次のページをめくった。


そこに描かれていたものは、馬がひく馬車が勢いよく森の中を走っていた。


そしてその横には、


『忘れて、忘れて、わたしを忘れて…。』

と、書いてあった。


わたしを忘れる?


ユナは、次のページをめくった。


大きな門があり、馬がその中に入っていく絵が描かれていた。

そして、その右上には、

『あなたは、ここで生まれかわる。』

と、書いてあった。


ユナは、しゃがみ込み、その絵本を食い入るように見ながら、次のページをめくった。


そこには、馬も何も描かれてはいなかった。

ただ、ピンク色、水色、紫色の絵の具が、ページのあちこちに塗りたくられているのみであった。







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忘却の楽園 雨宮るる @ameruru

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