フランス在住の作者が、日常生活の風景や感じたことを綴っているエッセイです。
パリ市の標語である「たゆたえども、沈まず」
パリの夕暮れを表現した「犬とオオカミの間」
フランス的桜の鑑賞と日本的桜の想いを綴った「フランスの桜、日本の桜」
フランスにお住いの作者だからこそ語れる上記のような作品もあれば、やるせない気持ちや寂寥感、浮き沈みする心を言葉にした作品も繊細な感性で描かれています。そのどれもが色鮮やかでバラエティーにとんでいます。
知的で美しい表現。季節や空を鮮やかに切り取った言葉たち。風景描写と心がリンクした詩。真面目に語っているのに毒っ気たっぷりのユニークさ。くすくす笑ってしまう、そっと差し込まれた小ネタ。
フランスという土地柄や雰囲気を楽しむだけのエッセイではないと、読み進めるうちに気づくはず。
古今和歌集、紀貫之。
「やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける」
(和歌は、人の心を種として、葉っぱのように生い茂っている言の葉である)
日本とフランスを両方知る作者の心で育った種が言葉となり、羽となってわたしたちの手元に届く。
遠く離れている人の言葉や想いにふれられるのもカクヨムの楽しみですね。
パリに住む筆者によって綴られるありふれた日常や風景の一コマ一コマが、こんなに心地良く染み入ってくるのは何故だろう?
そこが日本ではなく、フランスのパリだから?
きっとそんな事ではないのだと思う。
素敵なエッセイには、日常から離れたちょっとした海外旅行気分の味わいだけでなく、自分が今生きている場所を大切にしたくなる何かがある。
黄昏時、夕暮れを形容する言葉
「entre chien et loup」(犬とオオカミの間)。
この言葉に魅了されました。フランス語の音も綺麗なんだろうな‥‥‥
少しずつ更新される小さな小説のような一話一話がとても楽しみになる作品です!
たゆたえども沈まず。この言葉を、私はこのエッセイで初めて知りました。作者様のフランスでの生活をメインに綴られたエッセイには、この1話目のタイトルに象徴されるような落ち着きがあり、どんな揺らぎも凪いだ水面のように整っていくような安心感があります。見たことがないはずの風景だけではなく、その場に流れる空気までふんわりと優しく伝わってくるのは、美しく丁寧な筆致のなせるわざなのでしょうね。拝読している時間に幸せを感じます。これからも更新が楽しみです。
初めて知る異国の文化や、人々の日常、言葉へのときめきが散りばめられたエッセイ。おすすめです。
フランスのその土地土地で心を込めて作られた料理を味わい、窓の外の風景をゆっくりと眺める。まるでそんな贅沢なひと時を過ごすような、深く豊かな味わいのエッセイです。
このエッセイの素晴らしさは、既に多くの方々がレビューに書かれている通りなのですが、私がこのエッセイに触れて改めて深く感じることは、「それぞれの国の文化は、その国の歴史に深く根ざしている」ということでした。
境界線という一本の線でのみ領域を区切られている土地は、侵略などの危険と常に隣合わせの歴史があります。自己をはっきりと主張し、戦うべき時に戦わなければ、自分達の暮らしを守れない。そんな古くからの覚悟というようなものが、そこに住む人々の根底にある。国の文化は歴史によって作られるなんて当たり前だと言われてしまうかもしれませんが、作者様が現在暮らされているフランスの文化を綴る確かな文章に触れ、改めてハッとさせられるのです。日本という、ともすれば閉鎖的な平和を守れてしまうこの国には、明らかに欠けているものがある。自らの主張をはっきりと掲げ、時には衝突してでも自分達の権利を守る力が。
なんとも個人的な感想をぶちまけましたが、その国の「文化」というものについて深く考え、改めて見つめるきっかけをくれる、奥深く濃厚な味わいを持ったエッセイです。