彼は「渡り鳥」であり「52ヘルツの鯨」でもあった。
その共通点は、絶え間ない孤独。
溜息が出るほど美しい文章でした。
読み終わる前から「今回の入賞これだな」と確信できるほどに。
他者との共感をまったく抱けず、人生に悲観する美大の学生が、若者らしい葛藤に苦しみながらも偶然出会った少女の無垢な心に触れ、少しずつ人間らしさを取り戻していく……内容は そんな青春ドラマです。
シナリオ自体は王道であっても、書き手の工夫次第でこうも変わるものだろうか。読めばそう驚愕できる完成度ですから。
文章の一字一句、台詞のひとつひとつに瑞々しい感性があふれ、読んでいる内にドンドン世界観に引き込まれていく筆致は見事としか言いようがありません。
詩的な作品、幻想的な作品、そう評される物の多くは「作者の独りよがりでよく判らん」という揶揄も少なからず込められているものですが、この作品はそういった独り善がりとは全く無縁の存在なのです。何より仕事が丁寧で、読者を置いてけぼりにしていません。52ヘルツの鯨について作中の詳細な解説があり、それがキチンと機能している所が素晴らしい。
詩的な作品を描いてみたい全ての人がお手本とすべき一作。
貴方も言葉の美しさに痺れてみませんか?