第26話 勇者タツヒコの冒険 ❾ 大怪獣決戦の裏側で〜4

(第四騎士団員M side)



私は第四騎士団員M…【HMT(本物の稀人通信)】の担当責任者の稀人だ。



私の他にも前職がIT関係の稀人や転生者がこの部署にかなりいる。

何故か…前職がこの職業の稀人や転生者は最近多い。



前の世界にkimi Tubeというのがあった。

皆んなが好きな事を撮影して、投稿するサイトだ。



私はそのkimi Tubeに立ち上げから関わっていた。



投稿者はkimi Tuberと呼ばれ、普通に撮影して投稿している人達が大半なのだが、偶に居るのが【迷惑kimi Tuber】と呼ばれる、非常に迷惑な奴らだ。



ヤツらは視聴率ポイントを稼ぐ為に人の迷惑も顧みずに撮影をして、社会問題になっていた。



まさかこの世界に来てまで、迷惑kimi Tuberに悩まされ事になるとは思ってもいなかった……



いったいどうやって、セイマ殿下の防御結界から抜け出したのか?

何故か王都の外に出てkimi Tubeの生配信をしているヤツらがいる。



おそらく稀人か転生者の冒険者だろう。

何を考えているのか知らないが、【HM T】にピンクギドラ(王太子命名)の生配信をし始めた!



魔道具研究所の作ったドローンモドキと、ピンクギドラの戦いをかなり近い位置から撮影しているのだ。



「いったい誰が撮影しているんだ?

今、この辺りにいる高ランクの冒険者で、kimi Tubeやってるヤツなんかいたか?」


「あ~このアカウントは…リリエールさんのですね。

というか、タツヒコでしょ?」



そうリリエールはあの国外追放になっているはずのタツヒコの別ハンドルネームだ。



第四騎士団ではずっとタツヒコ達を追っていた。

目的はタツヒコ達ではなく一緒に居る、教会の派遣回復士兼稀人教習の講師であるハーフエルフのリリエール・バキシヌの犯罪の証拠を掴む事。



この女は長年の間、転生者として冒険者ギルドで稀人教習の講師をし、多額の報酬を受け取っていた。

しかしこの数年の間にタツヒコ達を含め、リリエールが講師を務めた教習生が何人も立て続けに事件を起こしたのだ。



中でも酷かった事件の例をあげると……



『稀人の平民の冒険者が、九人の女性と重婚して訴えらる事件が発生。被害者の中にはまだ幼い子供もいた。結果賠償金を払いきれずに犯罪奴隷落ち。』


『五人の貴族令息に取り入り、次々と籠絡して婚約破棄をさせ、家同士の契約をめちゃくちゃにし、逆ハーレムを作ろうとした稀人の女。

しかも、どこかの乙女ゲームの真似をして、令息の婚約者達に冤罪を掛けていた事まで発覚。婚約破棄した令息共々、傷害と偽証、名誉毀損、各家への損害賠償で現在も裁判中。』



この世界では王侯貴族以外の者が、三人以上の者と結婚する事はタブーとされている。

(元々ハーレムを作る種族は別)



その三人と生まれて来る子供達もきちんと養っていかなくてはならないので、平民がそれを守るのはかなり難しい。

貴族でも守れる者は少ない(お金が掛るから)。



せいぜい二人が限度だ。



まぁともかく、事件を起こしたヤツらに事情聴取をしたところ、皆一様に『冒険者ギルドではそんな事習わなかった!』『知らなかったんだから仕方ないだろ!(でしょ!)』と言っていた。



だが、『無知である事は罪である。』と誰かが言っていた。



実はこの件が明るみに出たのはkimi Tubeのおかげでもある。



彼(彼女)らの事を誰かが【HMT】に投稿したのだ。

それがきっかけで、罪が発覚した。



きちんと冒険者ギルドの【稀人教習】でこの事は伝えられているはずなのに、怪しい……



調査してみると、知らなかったのは【大柄な方の稀人】だった。

後で現地人から、ちゃんとした常識を教えられてまともに暮らしている者もいるがな。



【小柄な方の稀人】は、元々そういう常識はこちらと大差なかったので、あまりそっち方面でやらかす者は少ない。



それに【小柄な方の稀人】はだいたい真面目で勤勉な者が多いのもある。



かく云う私も【小柄な方の稀人】だ。



さて画面上ではピンクギドラが、全てのドローンモドキの反射板を壊し、王都に向かおうとしているのを、タツヒコが攻撃して別方向に誘導している。



怒ったピンクギドラの攻撃を、仲間の魔法使いマサユキの結界とリリエールの風魔法で防ぎ、斥候ヨウジが撮影をしながら実況をしている。



「「「「「なんて能力の無駄遣い!!」」」」」



タツヒコ達のおかげで、かなり時間が稼げたのが幸いし、巨大勇者シルバーによって、ピンクギドラは倒された。



途中から増えたドローンモドキカメラの俯瞰映像ではなく、地上から撮影された、巨大勇者シルバー対ピンクギドラの戦いは圧巻だった。

そうまるであの【◯ジラ対キン◯ギドラ】の映画を見ている様だ!

解説をしているヨウジのセリフもわかりやすくて良い。



監視していた私達も途中から、この映像に見入ってしまった。

撮影クルーとしてなら、コイツらかなり優秀だな。



いや、褒めている場合じゃなかった。



危険な事は危険だと、きちんと厳重注意しなければならない。

まぁそれはうちの仕事じゃなくて、団長達の仕事だけどな。



因みにこの映像は現在、関係者以外には流れていない。

それでも最初の数分間は流れてしまった。

コレは危険な映像だ。



放送権限がこっちに有って良かった。

何しろ【HMT】自体、一応民間を装っているが、実は国営企業だ。



危険だと判断されれば、即座にブロックできる。



まぁ普通に考えてただの民間企業が異世界で、こんな大規模な事業展開が出来るはずがない。



後にこの映像はドローンモドキの撮影した物と合わせて編集され、王太子の命令で資料映像として王都の冒険者ギルドで自称稀人、自称転生者に向けて上映された。



すると、その中の何人かは【ただの恐ろしい映像】としか見えなかったそうだ。

対してその映像を見て大ウケしていた者もいた。



後の調査で、前者のほとんどが偽物で後者がほとんど本物か猫好きだった事が判明した。

王太子がこの映像を彼(彼女)らに見せたのは、コレが狙いだったらしい。



ここで私は確信した、王太子は転生者だ。

今回の件はあちらの世界の事を知っている者にとっては、ネタの宝庫だった。



何しろ撮影対象がアレである。

うちの部署では編集しながら、笑い死ぬ寸前の者が続出。



上からは『早くしろ!』と要請が来てしつこかったが、コレばかりは現地人には任せられない。



彼らにはどこが稀人や転生者のツボか理解出来ないのだから……













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