結(2)
不自由になった身体の代わりに、そして自分と同じように年老いた妻の代わりに、部屋を片付けたり、掃除をしたり、ベッドに物を運んだり、身の回りのことができるように……と思っての買い物だった。
でも、そのうちに、まるでドローンと一体になったような感覚に捕らわれ、ゴーグルを外そうとしなくなった。
走った後の息切れ、じっとりする肌の汗ばみ、胸のどきどきする鼓動……。
ドローンの視聴覚があまりにも鮮明で、筋肉の動きと深く連動しているせいで、記憶の中の身体の感覚が呼び醒まされてしまったのだった。
日中になると屋外を飛びまわり、年をとったことすら忘れ、子供の頃に戻ったような気持ちになり、夜が来てバッテリーが切れると、家に帰ってくる……。
そんな日々を繰り返すようになった。
スグルの耳に、サエコの言葉が聞こえてきた。
「無茶はしないで」
続く声は、わずかに弾んでいた。
「でも、モニターを一緒に見ていると、私も、貴方とあちこち探検しているような気分になるのよ……。ちょっとわくわくするわね」
こうやって、今まで彼女はずっと自分の隣にいた。
ゆっくり衰えていくこの街で、この世界で、あと何回、こうして隣同士で眠りを迎えることができるんだろう。
そう思いながら、スグルはすやすやと寝入っていた。
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