転(1)

 線路はまっすぐ伸び、はるか先に見える山並みへ続く。

 ちょうど山の麓のあたりにスグルは目をこらした。

「あった」

 向こうの木立の間に、丸太組みの古びたログハウスがちらちら見えかくれする。

 ゴールが見えて、がぜん足が速まる。

 なかなかたどり着くことができないのをもどかしく感じながら、息をすることも忘れたように駆けていく。



 そうして、ようやく、ログハウスの全体がわかる辺りまで近づいてきた。

 スグルは線路を外れて、小屋へと直接続くゆるやかな坂道を上りだした。

 いつの間にか、ヒグラシの声がスグルたちを迎えるように周囲に満ちている。

 ほどなくログハウスにたどりつくと、スグルは、木製の階段をゆっくりと踏みしめてのぼった。 

 正面に広いウッドデッキがあり、長く伸びた庇のといから、三人掛けの籐椅子が吊り下がっている。

 玄関からウッドデッキに跳び移ったスグルは、その場にうずくまると、ごそごそ床板をいじりはじめた。



 しばらくしてから、一気に力をこめて板を引きはがす。

 下から、青い縞模様に彩られた大きな菓子缶が現れた。



 スグルは、注意深くそっと缶を取り出した。

 錆びついたフタには赤いマジックで「たからもの」とへたな文字が書かれ、隣に「はなまる」がヒマワリに似せて描かれている。

 フタの縁にむりやり爪を立てて、ぐいっと開いた。


 箱の中には、あちこちの家や部屋で拾ってきたものが、ぎっしりと詰まっていた。

 ねじ曲がった鈍い銀色の金属管。

 鮮やかな黄色の革製の眼鏡ケース。

 じゃらじゃら連なったキーホルダー。

 歯車が折り重なり残っている腕時計の基盤。

 持ちにくいほど太い黒の万年筆。

 複雑な彫刻が施されたタンスの引き出しの把手。

 どう動かすのかわからない球体の電子玩具。

 円錐形の建物が描かれ、外国語の説明が入った、何かの入場チケットの半券が五枚。

 それから、割れた写真立ての中の色褪せた写真に写っている、縁側に並んだ作業着姿のおばさん、おばあさん、子供たち……。



 集めてきたものをあらためて眺めていくうちに、スグルは気がついた。

 いつも身近にあったさまざまな人々の息づかい……。

 自分は、この街の中に無数に散らばっているその痕跡が愛おしくて、その空気を、流れ去った時間を味わおうとして、棄てられた家々を駆け巡っては、こうやって、その名残をかき集めているんだ……。



 スグルは、さっき手に入れたガラス玉を布製のバッグから取り出して、もう一度目の前にかざした。

 缶の中の宝物の像が幾重にも重なり、夕陽に照り映えて輝いている。

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