相談5「ともだちが殺人鬼みたいです」
あや「今週もやってきたよ! あやととしこのインターネットラジオ『超生きる!』 たのしすぎてまじやばい」
淑子「ああだりい」
あや「じゃあ『あやととしこの人生相談』のコーナーだよ きょうの相談者は○○県在住 篠崎さん十五歳」
淑子「もしもし篠崎さんですか」
――(沈黙)
あや「あれ お手紙間違ったかな」
――いえ ぼく 篠崎です
あや「じゃあ あなたのおなやみきかせてよ!」
――どういっていいかわからないんですが ぼくのともだちが殺人鬼みたいで
淑子「じゃあ 逮捕されたってわけ?」
――いいえ どこまで話せばいいかわからないんですが 最近 ○○県で連続殺人事件がおきているじゃないですか あの猟奇的なやつ ぼくのともだちがどうも あの犯人みたいなんです
あや「なにそれやばい! 話がすごすぎ!」
淑子「証拠はあるの? たんなる憶測じゃないわけ?」
――たしかに証拠という証拠はないんですが このまえ学校で ともだちが「おまえ ひところしたことある?」って訊いてきて よく話してみたら 今度何処何処でひとが死ぬよ みたいなことをいって 実際にともだちのいった場所と時刻でまた猟奇的殺人事件がおこったんです 勿論 まだ証拠がたりないから 今度 おなじようなことをいったら ともだちを追跡して証拠をつかもうかとおもっています
淑子「そんで ともだちが犯人だったら どうするの」
――正直にいいます ぼくはともだちをまもりたいんです ともだちに殺人をやめてほしいんです 逮捕されてほしくありません それだけなんですが もし 殺人をやめないようなら 警察に通報するかもしれません
あや「なによりもともだち優先ってわけね いい仲間じゃん ねえ としこ」
淑子「まず聞いてほしいのは 『人間は悪でもなく善でもなく人間』ってこと 犯罪心理学の本に書いてあったことね ベンヤミンは『暴力批判論』とかで 『法律がなければ犯罪が存在しないのはあたりまえだけれど 法律がなければ罪も存在しないのだ』みたいなこといってたよ バタイユは 『宗教で殺人を禁じているのは我々に殺人への欲求をわかせるためだ』とかいってたね 柄谷行人によると『基督教が誕生するまで殺人が悪だという道徳は存在しなかった』っていうんだけどね 孰れにしろ 法律も宗教も『なんでひとをころしちゃいけないのか』ってゆう問題の窮極の解決にはならないみたいだね じゃあ 道徳っていうのは存在しないのかっていうと 『道徳は星のうごきのように正確である』ってカントがいってたよ たぶん 現代人にとって 唯一無二のたしかな道徳っていうのは カントのいう道徳しかないんだとおもう じゃあ カントはどういってたかっていうと 『すべての他者を手段だけでなく目的としてあつかえ』ってことなの あんたのともだちは犠牲者たちを手段としてあつかうだけで目的としてあつかってないわけね この理窟がわからないと ともだちが殺人をやめることはないとおもう それをともだちにわからせてあげられるのは本統のともだちだけ あんたしかいないね 今度 真正面からともだちとはなしてみるといいよ 殺人は本統にいけないことか いけないのならなぜいけないのか いまあたしがしゃべったようにね それができなければあんたは『本統のともだち』じゃないよ がんばれるかな? さらに犠牲者がふえないことと なにより あんたのともだちをすくうためにもね」
――ちょっと むずかしい話でわからないんですが よくかんがえて ともだちと話してみたいとおもいます
淑子「結果だけどね あんたのともだちは死刑にされるかもしれない それでも あやがひとごろしだったら あたしもおなじことをする 人生であんたっていうともだちと邂逅できたことは 死刑囚となったともだちにとっても 奇蹟みたいに素晴らしいことだったってわかってもらえるはずだからね」
――むずかしいですけど ありがとうございました がんばりたいとおもいます(電話が切られる)
淑子「こんなんでいいのかなあ ああだりい」
『超生きる! 女子高生、あやと淑子の人生相談』連作短篇集 九頭龍一鬼(くずりゅう かずき) @KUZURYU_KAZUKI
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