相談4「おにいちゃんが首を吊りました」
あや「今週もやってきたよ! あやととしこのインターネットラジオ『超生きる!』 たのしすぎてまじやばい」
淑子「ああだりい」
あや「じゃあ『あやととしこの人生相談』のコーナーだよ きょうの相談者は○○県在住 立原さん十五歳」
淑子「もしもし立原さんですか」
――はい(聲がふるえている)
あや「あなたのおなやみきかせてよ!」
――さっき お兄ちゃんが首を吊りました 父さんと母さんがつきそって 救急車で病院に搬送されました ぼくは留守番をまかされたんですが まだ 電話もこないので お兄ちゃんが生きているか死んでいるかわかりません こんなとき どうやって家族をまっていればいいんでしょうか
あや「なにそれやばい! お兄ちゃん心配!」
淑子「冷静に聞いてね なんていわないよ いまの感情を素直にいってごらん」
――(号泣して)お兄ちゃんのことがだいすきでした 絶対に死んでほしくありません
あや 淑子「(沈黙)」
――(やや冷静になって)お兄ちゃんはなんで死のうとしたんでしょうか
淑子「はっきりとはいえないけど お兄ちゃんになにか病気はあったの?」
――学生時代からひとと会うのがこわかったみたいで 両親のすすめで 一回だけ精神科を受診したことがありました パーソナリティー障碍? みたいなことはいわれてました あと 会食障碍とか よくわかりませんが
淑子「精神医療の世界ではね 鬱病って単発でおこることはめずらしいの つまり 純粋な躁病以外のすべての精神疾患では一般的に鬱病を併発するものなの そのうえ 会食障碍ってね 鬱病よりも希死念慮の発症率がたかくて 鬱病と併発したら ものすごく危険なわけ たぶん お兄ちゃんは病気で首を吊ろうとしたの だれもわるくない わるいのは病気 あんたたちもみんなわるくないし 勿論 お兄ちゃんもわるくない これはおぼえておいてね」
あや「それじゃあ もう お兄ちゃんはたすからないみたいないいかたじゃん きみ お兄ちゃんはまだ死んでなかったんでしょ」
――お兄ちゃんはまだ生きているとおもいますが 鼻から脳味噌がたれてて たぶんもうたすかりません
淑子「よく聞いて 鼻の穴から脳味噌がでてるってことは たぶん 前頭葉がくずれてるとおもうの たとえたすかっても いままでの人格はたもてないだろうし 屹度 脳死状態になるとおもう いい? インターネットで自殺対策について検索すると 『自殺すると地獄におちるから自殺してはいけない』っていう宗教の宣伝サイトがたくさんでてくるのね これって 自殺遺族のひとたちに『あなたの家族は地獄におちましたよ』っていってるようなもんだよね わたしはそんなこといえない 勿論 百%の科學的論拠をさがすのはむずかしいけど 精神分析学における臨死体験研究で 『地獄を体験した』っていう体験談は滅多にないわけ みんなあの世はすばらしいところだとわかって 死ぬのがこわくなくなったっていうのね だからなにってはなしなんだけど 九頭龍一鬼っていう売れないワナビがね 『人間は死んだら全員天国へゆく』っていってて あたしもそうおもうわけ 統計によると 自殺者は何年もくるしんだすえに決行するらしいの だから『死ぬほどくるしんだおにいちゃんは天国へいってしあわせにくらすんだ』っておもってくれないかな むずかしい?」
――(沈黙)
淑子「それより大事なのは この世界にのこされた家族のみんなだよ いま この世界は地獄のようにおもえるかもしれないけれど それでも生きている家族で愛しあってくれないかな 地獄を愛せればこの世界も天国だっていうし そうおもえなくても この世界に絶望しないで」
――すみません 電話がかかってきました
淑子「相手のために泣けるなんて 最高のきょうだいだよ いままでも これからもね」
――ありがとうございました 電話にでます(電話が切られる)
淑子「まじでこれでよかったのかなあ ああだりい」
※この回の相談内容は、ドリアン助川氏のラジオで実際に投稿された相談内容を原案としました。ドリアン助川氏の随筆で紹介されていましたが、氏の回答が何処にもみあたらないので、今回、愚生が独自に回答をかんがえてみました。
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