相談3「娘が死刑囚になりました」
あや「今週もやってきたよ! あやととしこのインターネットラジオ『超生きる!』 たのしすぎてまじやばい」
淑子「ああだりい」
あや「じゃあ『あやととしこの人生相談』のコーナーだよ きょうの相談者は○○県在住 漆原さん四十五歳」
淑子「もしもし漆原さんですか」
――はい どうも すみません
あや「あなたのおなやみきかせてよ!」
――あのう 娘が死刑囚になったんですが
あや「なにそれやばい! ハード!」
淑子「そもそも なんでそうなったわけ」
――うちの娘にはいもうとがいまして 高校生のいもうとが学校でいじめられているって識って がんらい 正義感というか義侠心のつよい娘は 金属バットをもって高校に闖入して いじめっこたち五人をみなごろしにしたんです
あや「すげえ」
――娘も死刑を覚悟していたんでしょうが 其処で人生最後のお酒を鯨飲しているところをかけつけた警察に逮捕されました 裁判では情状酌量の余地以前に 永山則夫判例から 三人已上ころした場合極刑ということで 死刑判決をうけることになったのです
あや「ハード」
――わたくしは勿論 事件の被害者および被害者遺族のかたがたへの慚愧の念でいっぱいです が はずかしながら 一番苦しいのは まもなく娘が死刑に処されるということです 娘のためになにかしてあげられることはないでしょうか
淑子「まず確認しておくけど 娘さんは死刑を覚悟していもうとさんをまもったわけだよね だから 娘さんは死刑をおそれていないってことをおぼえていてほしいの それでも心配なら ひとつ 余計な雑学かもしれないけれど いっておくと 『この国で一番楽な死に方は絞首刑』なの 首吊りと絞首刑のちがいってわかるかな 首吊りは頸動脈を圧迫したうえで 呼吸器官をしめあげることで 脳髄への血液と酸素の注入を停止させて死ぬわけ だから 死ぬまでにはながいと七秒間くらい苦しまないといけないの それにくらべて 絞首刑ってのは 堅韌なロープを首にまいて 超高いところから突きおとすわけ そうすると 地下で首に衝撃がおこった瞬間に脳髄の中枢である脳幹が破裂するから 一瞬で肉軆のホメオスタシスが停止して なにも感じないで天国へゆけるの だから 娘さんが苦しんで死ぬっていうイメージはぽいって棄てていいわけ」
――でも 死刑って一種の殺人ですよね たしかにひとごろしとなった娘ですが 娘がひとの手であやめられるとおもうとせつなくて
淑子「哲学の分野で 反出生主義ってあるよね ターレスとかニーチェとかショーペンハウアーとかシオランとか つまり 『人間はかならず死ぬのだから 人間を誕生させるということは その人間に死をあたえること』であって『子供をつくることは一種の殺人である』ってわけ きびしいこというようだけど そもそも あんたが娘さんを生まなければ娘さんは百%死ぬことはなかったわけ だから子供をつくっちゃだめってのが反出生主義の教義なんだけど 厳密にいうと あたしは中立派なわけ 子供を誕生させることが子供に死をあたえることだって認識があれば 子供をつくってもいいとおもう それだけの覚悟が必要だってこと 量子論的にかんがえれば あんたの子供が平穏無事にくらせるかどうかなんて 確率論の話なわけでしょ 災害で死ぬかもしれないし それこそ 死刑に処されるかもしれない きびしいことをいうと 娘さんが死刑囚になった窮極の原因はおかあさん自身なの おかあさんは娘さんの心配をしているけど 本統に苦しむべきなのはおかあさん自身なんだよ 其処がわかればすこしは娘さんへの態度がかわるとおもう 娘さんは死刑をおそれてないんだから おかあさんが悩むべきなのは おかあさん自身の人生なんだよ」
――すみません わたくしにはむずかしいことはわからないのですが としこさんくらいはっきりいってくれるとたすかります
あや「としこは残酷なおんなだから あんまり気にしないでね」
――本統にありがとうございました 失礼いたします(電話が切られる)
淑子「こんなんでいいのかなあ ああだりい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます