相談2「ひきこもりの息子をころしたいです」

あや「今週もやってきたよ! あやととしこのインターネットラジオ『超生きる!』 たのしすぎてまじやばい」


淑子「ああだりい」


あや「じゃあ『あやととしこの人生相談』のコーナーだよ きょうの相談者は○○県在住 熊谷さん七十五歳」


淑子「もしもし熊谷さんですか」


――はい 熊谷と申します よろしくおねがいいたします


あや「あなたのおなやみきかせてよ!」


――それが もうそろそろ息子をころそうかとおもっていて


あや「なにそれやばい! 意味不明すぎ!」


淑子「なんで息子さんをあやめたいわけ?」


――うちの息子は過保護にそだてたせいか 大學を卒業しても定職につかず ひもすがらよもすがら テレビというかパソコンというか ゲームの世界に熱中していて 所謂 ひきこもりを何年もつづけているんです このままじゃあ 最悪 人様の税金で 一生をくらすのかもしれません そうおもうと 世間様にももうしわけなくて そんなことなら わたくしが決着をつけようとおもいまして わたくしは息子をころして刑務所に這入る覚悟もできています


淑子「息子さんが働かない 息子さんが税金を搾取して生きるかもしれない それくらいなら死んでほしいということだね」


あや「じゃあ あなたがお爺ちゃんになって働けなくなったら ころされてもいいってこと?」


――え? そんなことはいってませんが。


あや「おなじことなんじゃないかなあ このまえTVでニートに説教する番組やってて 有名なお笑い藝人が『働かないやつは 飯を喰うな』って怒鳴ってたけど 『じゃあ あんたが寝たきりになったら 餓死するしかないね』っておもったよ ねえ としこ」


淑子「『働かざるもの 喰うべからず』ってもともとはパウロの言葉だったとおもうけど 明治維新で基督教が輸入されてひろがったんだよね ついでにいうけど アウシュヴィッツの入口になんて書いてあったか識ってる? ダンテの『神曲』みたいに『すべてののぞみを棄てよ』って書いてあれば だれも這入らないよね アウシュヴィッツの門には『働けば自由になる』って書いてあったの ナチスのやった大虐殺って よく ヒトラーによる人種差別政策だっていわれるでしょ でも それだとホロコーストの前段階となったT4作戦の理由を説明できないの 働けない障碍者に『恵みの死』をあたえたっていうわけ ワイマール共和国で政権をとったナチスにとっては 『働ける人間は生きていいよ』 でも『働けない人間はころしてあげますよ』 それって『素晴らしいことでしょ』ってことなの あんたがやろうとしてることは これとおなじなんだよ」


――でも なにもしないで生きている人間を人間といえますか


淑子「あんたは家族を愛してないの? 普通に学校にいったり 普通に仕事したり 普通に結婚したりしなければ 息子さんは愛するに値しないの? 心理学では『~だから価値がある』ていうのを『機能価値』っていうの それにたいして『ただ其処にいるから価値がある』っていうかんがえかたを『存在価値』っていうわけ つまり 『条件附きで愛している』っていう愛は贋物じゃん 『生きているから愛している』っていう愛以外に愛っていうのは存在しないわけ あんたの息子さんにたいしても『~だから愛してる』んじゃなくて 『生きているから愛してる』っておもえなけりゃあ あんたはまがいもんの家族だよ」


――(沈黙)


淑子「たしかに 税金で生活とかいわれると センシティブな問題だからなんともいえないけど たぶん そういう状況になったらなったで 息子さんなりにがんばるとおもうよ あんたやみんながそうであるように 人間ってそんなによわくないから」


――(沈黙)ありがとうございました もうちょっとかんがえてみます(電話が切られる)


あや「これでよかったのかなあ」


淑子「それはわたしの台詞だよ ああだりい」

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