『超生きる! 女子高生、あやと淑子の人生相談』連作短篇集

九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)

相談1「自殺したいです」

あや「今週もやってきたよ! あやととしこのインターネットラジオ『超生きる!』 たのしすぎてまじやばい」


淑子「ああだりい」


あや「じゃあ『あやととしこの人生相談』のコーナーだよ きょうの相談者は○○県在住 天野さん三十六歳!」


淑子「もしもし天野さんですか」


――はい天野と申します


あや「あなたのおなやみきかせてよ!」


――あのう 自殺したいのですが


あや「なにそれやばい! まじの人生相談じゃん! としこ」


淑子「やばくないよ 自殺したいひとなんてごまんといるよ で あんたはなんで死にたいわけ」


――精神疾患のために 中卒ののちに工場で働いていたんですが 病気と薬の副作用のせいでまともに働けなくて お金だけもらっているのが慚愧にたえなくて やめてしまったんです 相模原の事件のようにぼくもころされるべきなんじゃないかとおもって 生きている価値がないとおもうんです


淑子「働けないから生きる価値がないって でも あんたはがんばって働いたこともあるんでしょ それだけでもすごいことじゃん」


――でも 社会人として無職のまま生きてゆくって 障碍者だとしても死んだほうが社会の役にたつとおもうんです


あや「死んだらだめだよ みんなかなしむよ あなたも家族がいるでしょ」


――家族なんていません もう歳ですし 祖父母も両親も他界しました 病気のせいで親戚からも顰蹙をかっています ぼくのためになみだをながすひとなんてひとりもいません


あや「あちゃあ それじゃ 仕方ないね 自殺するっきゃないかな」


淑子「ちょっと あや それじゃあお仕舞いじゃん じゃあ あんたはなにか 人生でこれだけはやっておきたかったことってないの?」


――はずかしい話なんですが ノーベル文學賞を受賞するのがゆめでした どんなひとにも文句がいわれないくらいにえらくなりたくて それじゃあノーベル賞を穫ろう 学歴不問でノーベル賞を穫るのならば平和賞か文學賞かって そんな不可能な情熱に憑依される自分がこわくもありました


淑子「なるほどね あのさあ 日本では毎年十万人くらい自殺してるわけ 政府の発表じゃあ二万人ってなってるけど 遺書をのこしていないとか 百%自殺と判断されないと変死体あつかいになって これが十万人をこえるの これってちょっとした戦争状態だよね 饒談じゃなくて 生きるか死ぬかの人生をあたしたちは生きているの 其処で実際の戦争にまきこまれたひとたちがどうやって死ななかったかっていうとね アウシュヴィッツ支所で強制労働させられていた精神科医フランクルは 自殺したいと懇願しにくる猶太人たちにこういったわけ 『あなたが人生に絶望しても 人生があなたに絶望することはない』 『人生はいつもあなたに問いかけていて あなたはそれにこたえなくてはならない』 『あなたを必要としているものがある ひとがいる それらのために生きなければならない』ってね あんたはノーベル賞がほしかったんでしょう じゃあ あんたに『書いてほしい』とねがっている原稿がのこっているはずだよ あんたが書きたいかどうかじゃないの あんたの原稿が『自分を完成させてノーベル賞を受賞させてほしい』って必要としてんの あんたが生きたいか死にたいかじゃない あんたが生きてないとこまる存在が絶対にいるわけ どんなにくだらないようなものでもね だから『あなたが人生になにをもとめているかではなく 人生があなたになにをもとめているかをかんがえなさい』っていうの あんたは人生になにをもとめられているとおもうわけ」


――ちょっとわかりません (沈黙) でも かんがえてみたいとおもいます


あや「じゃあ いまのところは生きていてくれる?」


――自信はないですけれど もうちょっと生きてみようとおもいます


あや「あんまり御役にたてなくてごめんね じゃあ今日の人生相談はこれまで」


――ありがとうございました(電話が切られる)


淑子「こんなんでいいのかなあ ああだりい」

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