男子高校生の恋愛事情 ②

「どうだったかとか聞かねーの?」

「別に聞きたくないし……それにそんなこと他人に話すなよ。石田が気の毒だろ?おまえに抱かれて石田がどんな風になってたとか、他の男に想像されてもおまえはいいのか?」


 語気を強めてそう言うと、太一は少し考えるそぶりを見せた。


「あー、そうか……それは全然良くないな。潤、ヒナの裸とか想像するなよ」

「するわけないだろ、興味ないし。でもまぁ……何をどうしてこうなったとかは聞きたくないけど、太一の感想くらいは聞いてやる」

「そりゃもう……めちゃくちゃ幸せだった。ずっとヒナのこと大事にしようって思った」


 太一は幸せそうな笑みを浮かべて呟いた。

 少なくとも太一は、気持ちよければ誰でもいいと思って彼女を抱いたわけではなさそうだ。


「なら良かったじゃん、今まで以上に大事にしてやれよ」


 本気で好きになった相手とならば、生殖目的でない意味のない生殖行為も幸せだと感じるらしい。

 俺には経験のないことだから、太一の感じている幸せがどんなものなのかはわからないけれど、本人たちが良ければそれでいいと思う。

 話も済んだことだし今度こそ勉強に取りかかろうとすると、太一は鞄の中を探り始めた。


「潤、明日誕生日だろ?」

「え?あー……そういえばそうだったな」


 自分でもすっかり忘れていたけど、明日は俺の18歳の誕生日だ。

 去年まではささやかなお祝いをしてくれた道代さんも、今年はもういない。

 おそらく父が何かしらプレゼントを用意して渡してくれるつもりだろうけど、その父も一昨日から2週間の予定で海外出張中だし、誰かに祝ってもらう予定もない。


「1日早いけどプレゼントやるよ」


 そう言って太一は小さな四角い包みを俺の手に握らせた。

 太一がプレゼントをくれるなんて意外だけど、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。


「ありがとう。気を遣わせて悪いな」

「開けてみて」

「ああ、うん」


 俺が包みを開け始めると、太一はニヤニヤ笑い始めた。

 なんとなくイヤな予感がする。

 ビックリ箱とか、その類いのものか?

 そう思いながら包みの中身を見た俺は、一瞬目がテンになって固まってしまった。

 実際に見るのは初めてだけど、これはもしかして……。

 箱の中を覗いてその正体を確かめた俺は、ため息をついてそれを太一に返品する。


「俺は要らないから、気持ちだけもらっとく」

「なんでだよ。潤だって吉野がいるだろ?」

「いるけど……吉野とはそういう関係じゃない」


 吉野と体の関係を持つ気はないし、この先もきっとこんなものが必要になるとは思えない。

 俺にとっては無用の長物だと思う。


「二人きりになったらキスくらいはするだろ?そのままお互いに気持ちが盛り上がって……ってこともあるじゃん?」

「……それはないな。キスどころか手も繋いだことないし、俺は吉野とそういうことしたいとは思わないから」


 俺が正直に答えると、太一は信じられないという顔をした。


「ええーっ……マジかよ……?!」

「マジ」

「いやいやいや……嘘だろ?彼女と二人きりになって欲情しない男なんていないって!」

「それがここにいるんだなぁ……。真面目な話だけどな、俺は吉野に『好きだから付き合って』って言われたから付き合ってるけど、おまえみたいに相手のことをめちゃくちゃ好きなわけじゃないから、二人きりになっても触りたいとか思わないんだ。そんなんで何かあるわけないだろ?だからこれは要らないんだよ」


 俺の考え方は彼女とラブラブ驀進中の太一には理解できないようで、眉をひそめてしきりに首をかしげている。


「潤、ホントに吉野と付き合ってんのか……?」

「一応そういうことになってる」

「一応って……。付き合ってんならもうちょっと大事にしてやれよ。じつは俺、ちょっと前に吉野から相談されたんだ。潤が自分のことをどう思ってるのかがいまいちよくわからないって。会いたいとか好きだとか言ってくれないから寂しいって言ってたぞ。もっと恋人らしいこともしたいってさ」


 吉野がそんなことを思っていたとは気付かなかった。

 だいたい恋人らしいことってなんだ?

 太一と石田みたいにイチャイチャしたいとか、そういうことか?

 そんなの他の男に相談しなくても、直接俺に言えばいいのに。


「ふーん……。もうこの話はいいだろ?そろそろ勉強始めよう」


 太一はまだ何か言いたげではあったけど、この話にはいい加減うんざりしてしまい、無理やり話を切り上げようとするとタイミング良くチャイムが鳴った。

 時計を見るともうすぐ11時になるところだったので、英梨さんが来たのだろうと立ち上がって玄関へ向かう。


「こんにちは。……あら?お客様?」


 英梨さんは太一の靴を見て俺に尋ねた。

 お客様なんて言うほどたいそうなものでもないけれど、客には違いない。


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