あの人との出会い ③

「何か部活はやってるんですか?」

「もう引退しましたけど、バレー部でキャプテンやってました」

「キャプテンですか!間違いなくモテるでしょう?彼女はいるんですか?」


 おしゃべりが好きな土田さんでさえ尋ねなかったことを、宮本さんはなんのためらいもなく尋ねた。

 やっぱりこの人は家政婦という感じがしない。


「モテるっていうほどでもないけど、彼女は一応……」

「いいですねぇ……青春って感じで!」


 青春なんてオーバーな。

 彼女と認識している女子、吉野 茉央ヨシノ マオが一応いるにはいるけど、ただ『好きだから付き合って欲しい』と言われたからそれに応じただけで、吉野のことが好きかと聞かれたら、それほどでもないような気がする。

 彼女のいる男友達のように、突然無性に吉野に会いたくなったりはしないし、抱きしめたいとか触りたいという欲求もない。

 高校生でも恋人同士ならキスくらいは当たり前にしているようだけど、吉野とはキスどころか手を繋ぎたいとも思わないから、ただ一緒に下校するとか、たまに一緒に出掛けたりする程度で、彼女と言っても仲のいい女友達と大差はない。

 ただお互いが『付き合っている』と認識しているかどうかだけの差だと思う。

 それでも吉野と付き合っているのは、俺のことを好きだと言ってくれるからだ。

 俺のどこが好きとか、なぜ好きなのかはわからないけれど、好きだと言ってもらえるだけで安心する自分がいて、逆に「私のこと好き?」と尋ねられたら、たいして好きでもないのに「うん」と答える。

 吉野自身を好きではなくても、俺を好きだと言ってくれるところは好きだと思う。


「やっぱり若いっていいなぁ、うらやましい……。私なんか高校卒業したのはもう何年前だっけ?って感じで……」


 宮本さんは夢見る乙女のような目をして、そんなことを呟いている。


「いやいや……宮本さんもじゅうぶん若いでしょう?」

「私なんか来月で24ですよ!高校卒業して短大に行って就職した会社は入社して1年でいきなり倒産しちゃうし……。短大が家政科だったし、家事は好きなので家政婦を始めたんですけどね、バリバリのベテラン主婦にはかなわないから、2年経って後輩ができても一番下っ端みたいな感じで……」


 歳のわりには苦労しているらしい。

 そしていつまでも一人前扱いされないことに、かなり鬱憤が溜まっているようだ。


「実際に若いんだからしょうがないんじゃないですか?だって宮本さんは他の家政婦さんの娘さんくらいの歳でしょう。どうしても娘を見るような感覚になってしまうんでしょうね。それでもうちを一人で任せられてるんだから、仕事ぶりは認められてると思います」


 客観的な意見を述べると、宮本さんはポカンとした顔で俺の方を見た。

 何か気に障ることでも言ってしまっただろうか。

 6つも歳下の高校生にそんなことを言われても、余計に腹が立つと思っているのかも知れない。


「すみません、生意気なことを言って」


 機嫌を損ねて辞められても困るので素直に謝ると、宮本さんは慌てて首を横に振った。


「生意気なんてとんでもない!目から鱗ですよ!潤さんはしっかりしてるんですねぇ……」

「それほどでも……」


 機嫌を損ねるどころか感心されてしまったようだ。

 宮本さんは両手を握りしめ、「うん、やる気出た!頑張ろう!」と大きな独りごとを言って大きくうなずいた。

 高校生の俺から見れば、宮本さんは年齢的には大人の女性に違いないのだけど、精神的にはなんとなく幼いような気がする。

 学校にいる女子とも、これまでうちに来ていた年配の家政婦とも違う。

 これまであまり接したことのないタイプの、歳上の女性との接し方がよくわからない。

 戸惑う気持ちと新鮮さが入り交じって、妙な気持ちになった。

 少し変わった人だとは思うけど、決して悪い人ではなさそうだと思った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る