愛して欲しい ①
ぼんやりベッドに横たわっていると、ドアをノックする音がした。
寝ているふりをしようかとも思ったけど、それこそ子どもっぽいと思うし、英梨さんにあまり心配はかけたくない。
俺が返事をすると英梨さんはそっとドアを開けた。
「潤くん、お昼まだでしょ?食事の用意できてるから下りて来られる?」
「うん……そっか、そういえば昼飯もまだだったな……」
起き上がってもなかなか動く気にはなれず、ベッドに座ったままでため息をついた。
「……大丈夫?」
英梨さんはそばに来て心配そうに俺の顔を見つめる。
「さっきは見苦しいところ見せちゃってごめん。確かに腹は立ったけど、別にそれで落ち込んでるわけじゃないから大丈夫だよ。それより今日の模試は思ってたより難しかったから、ちょっと疲れたかな」
俺はまた作り笑いを浮かべて、わざとらしく伸びをした。
英梨さんはまるで自分のことのように、ひどく悲しそうな顔をしている。
「無理しなくていいの。誰だってあんなこと言われたらショック受けるよ」
「俺、誰と付き合っても続かないんだ。相手から好きだって言われて付き合ってもすぐにフラれる。吉野の言う通り、ホントつまんない男だから」
俺が笑いながらそう言うと、英梨さんは華奢な腕を俺の背中に回して俺を抱きしめ、その胸に俺の顔を埋めさせた。
予想外の英梨さんの行動に驚きはしたものの、今まで経験したことのない人肌のぬくもりとか、女性の胸の柔らかさとか、ほのかな柑橘系の香りと微かに英梨さんの汗の入り交じった匂いがあまりにも心地よくて、俺はこのままずっとこうしていたいと思ってしまう。
「そんなことないよ、潤くんはすごく優しいし真面目だし、全然つまらなくなんかない。私はそのままの潤くんが好きだよ」
英梨さんはきっと情けない俺を精一杯慰めてくれているんだろう。
そんなことはわかっているのに、英梨さんがそのままの俺を好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
「ありがとう。嘘でも同情でも嬉しいよ」
俺がそう言うと英梨さんは首を大きく横に振って、俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「……嘘でも同情でもないよ。私は本当に潤くんが好きなの……」
俺のことなんか子ども扱いしているんだろうなと思っていたから、俺はその言葉に耳を疑い、顔を上げて英梨さんの目をじっと見つめた。
「俺のことが好き……?ホントに……?」
「うん……好きだよ」
英梨さんが少し恥ずかしそうにそう言って、俺の目を見つめ返した。
俺たちはどちらからともなく引き寄せられるように唇を重ね、抱きしめ合って何度もキスをした。
キスなんて初めてだったけど、誰に教えられたわけでもないのに、英梨さんの唇を舌でこじ開けあたたかく湿った舌を絡めとる。
英梨さんの唇や舌の柔らかさ、抱きしめた体のあたたかさを感じるごとに、それだけでは足りないような、もっと深く繋がりたいようなもどかしい気持ちになった。
そしていつの間にか俺は英梨さんをベッドの上に押し倒し、英梨さんの着ていたTシャツをたくし上げて素肌に触れていた。
これまでは好きでもない相手に手を出すなんてあり得ないと頑なに思っていたはずなのに、そのときの俺は不思議なことに、英梨さんの気持ちだけでなく体も繋ぎ止めたいと思っていた。
俺の手や唇が柔らかい場所に触れると、英梨さんは切なそうに甘い声をあげる。
そして俺の名前を呼んで、何度も好きだと言ってくれた。
もっともっと好きだと言って俺を求めて欲しくて、俺は無我夢中で英梨さんの肌に舌を這わせ、体の奥の柔らかいところを指でさぐる。
そして俺は鞄の中から取り出した太一の置き土産を使って、英梨さんと体を繋げた。
初めてのセックスが気持ち良かったかどうかなんて覚えていない。
英梨さんが俺のすべてを求め、受け入れてくれたことが、ただひたすら嬉しかった。
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