【元】勇者候補の奇譚章

@yumemirugorira

第1章 始まり。

プロローグ


ここはある世界の、とある国。

この国には秘術とされる勇者召喚の術式が代々受け継がれているのだが、

その術式は、未だかつて誰も使用したことがないという代物であった。


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「お父様!!!!!」


声を荒げながら、15歳ほどの少女が机に座る40代ほどの中年男性に歩みより、バン!!と机を叩く。


「なぜあの術式を使用してはならないのですか!!」


「なぜって言われてもなあ、、、、、、、」


どうやらこの二人は親子関係らしく、男の方は老けてはいるがどこか威厳のある、端麗な顔立ちで、少女の方は親の顔を受け継いだのかこれもまた美しい、整った顔立ちをしていた。


「また言い逃れをするのですか!!!毎度毎度誰も使ったことがないからという言い訳ばっかして!!」


「うーん、、、だがなあ、、、、」


どうやら二人はある術式の使用について揉めてるらしく、王女は以前からずっと抗議しているようだ。


「今は王国の危機なのですよ!?王であるお父様が迷っていてどうするのですか!!勇者という存在がいればこの危機は乗り越えられるのです!!」


「、、、、、、、うーん、、、、、、」


どうやら中年男性の方はこの国の王らしいが、少女の剣幕に押され、ほとんど言葉を発せていない。抗議をしている気の強い少女はおそらくその娘、王女だろう。


「このままではこの国が魔物に滅ぼされてしまいます!!ただでさえこの国は資源が少ないというのに、、、、、お父様!!!話を聞いてください!!」


王がこっそりと逃げ出そうとしたところで王女が呼び止め、話を聞くように促す。


「う、うーん、、、、しかし勇者召喚の術式はほとんど成功した例がないんだぞ。

本当にできるのか?」


そう、この術式とは勇者を召喚すると言うものなのだ。この王国に大昔から伝えられているもので、使用方法は術式が書かれた魔法陣に王家の魔力を流すと言うもの。しかし術式がとても難しいため成功率が低く、ほとんど使用されたことがない。


「だ・か・ら!!それはもう研究して成功率はほぼ10割に近い状態にしたのです!!なので心配するようなことはありません!!」


「だが、、、、、」


「心配ありません!!!!!」


王女が自信満々にそう言い放つと、王は言葉が出てこなくなったらしく口をつぐんだ。





束の間の沈黙。


王女はじっと王を見つめ、王はうつむいた状態でじっと考えている。





「はあ、、、、まあいいか。だが怪我だけはするなよ。」


先に折れたのは王の方だった。ため息をつきながら術式の使用許可を王女に与える。

そしてこの言葉を聞いた途端、


「ありがとうございますわ!!お父様!!」


王女は満面の笑みでそう言い、足早に部屋を出て行った。

残された王は、


「、、、やっぱり反抗期なのだろうか、、、、、」


とひとり落ち込んでいた。


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カッカッカッと踵が床を叩く音が廊下に響き渡り、

先ほどの王女が何人かの従者を従えながら廊下を進んで行く。


(やった!やった!ついにお父様から術式の使用許可をいただいたわ!!やったあああああああああ!!!)


前々から抗議をしていたため、その抗議が通ったことに、喜びを隠せず口元がどうしてもにやけてしまう。


(それにしても魔物の暴走”スタンピード”が起こったのは想定外だったけど、都合が良かったわ。)


スタンピードとは突如魔物が暴走状態に陥る現象のことで、規模によっては小さい国が一つ消滅することもある。現在、この国の周辺では大規模なこのスタンピードが起きており、それは軍が出動しなければならないほどの規模であった。

王女はそのことをうまく使い勇者召喚の術式の使用許可をもらったのだ。


(勇者召喚の術式が使える日が来るなんて、、、夢みたい!!これで私は術式を試せるし、勇者召喚が成功すればスタンピードも抑えられる。まさに一石二鳥ね!!)


心の中で小躍りしながら王女は足早に廊下を通り抜けていった。


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〜3週間後〜



「フム、、、、召喚される人数は最高で40人。

一人一人にスキルが与えられる。

もともとの能力は一般人以下だが成長速度が早く、場合によってはミスリル級冒険者に匹敵する力を持つこともある。

そして成長速度は一人一人違う、か、、、。なかなかの代物じゃのうこれは。」


広大な空間の床に書かれた魔法陣の前で、ローブを着た老人が魔法陣の詳細を読み上げる。ここは王宮の闘技場だ。


「おじいちゃーん。準備できたー?」


と老人を呼ぶ声が聞こえる。

老人がそちらを振り向き、


「おお。これはこれは王女様。今日もお元気なようで」


そういってお辞儀をした。

おじいちゃんと呼ばれた老人はこの国の大臣であり、王女はあくまで目上の人間だ。

しかし王女と呼ばれたその少女は、


「いいわよ。そんな堅苦しくなくて。それより、いよいよね。」


と答えた。

王女が言ういよいよとは、勇者召喚の術式の使用のことである。


「やっと魔法陣が書き終わって、術式が使えるわ、、この日をいくら待ち望んだことか、、、、早速始めるわよ。」


「もう、でございますか?」


王女の提案に大臣は驚く。


「当たり前じゃない。詳細も一通りわかったんだから、おじいちゃんがいれば大丈夫でしょ?」


「それもそうなのですが、、、、」


「じゃあいいじゃない、やるわよ。」


大臣はこれ以上何をいっても聞かないことを悟り、それに従うことにした。


「かしこまりました。ではそこに手を置いて魔力を流し込んでくだされ。」


そういって老人は魔法陣につながった、もう一つの魔法陣を指差す。


「ここね、わかったわ。」


そういって王女が手を置いた瞬間、魔法陣がボウッとひかる。


「綺麗、、、、」


思わず声が出てしまうほどそれは幻想的な光景だった。


「魔力を流し込んでくだされ。」


その言葉に従い王女が魔力を流すと、だんだんと魔法陣の輝きが増してきた。


(一番心配なのは魔力切れじゃが、、、まあ王女様なら大丈夫じゃろう)


基本、王族と言うものは魔力量が多く、この王女はその最たる例であり、幼い頃から将来を期待されていた。そのため大臣はあまり心配をせず、儀式を見守り続ける。







そして、何分間か魔力を流した時、急に魔法陣の輝きが増した。

その瞬間、王女は体内の魔力が一気にもってかれた時の虚脱感に襲われる。


(ぐっ、、、、なにが起きたの?!)


そう考えているうちにも体内の魔力がどんどん吸われ、魔法陣の輝きが増していく。

思わず膝をつきそうになりながらも、王女は魔力を流し続ける。


「王女様!!大丈夫ですか?!」


大臣がそういった途端、一気に魔法陣の輝きが増し、王女の視界は魔法陣から発せられた白い光に埋め尽くされた。

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