第1話 シブヤ電波会議室
「時代も変わったなぁ。」
と、自慢のVRをはずしながら、シブヤ電波会議室支部局長の、桜井隆は言う。机の上にVRの機械を置き、感慨深げに言った。
「のんびり、VRの画面を覗いていられるなんてね。それこそ昔なら、何か悪戯でも仕掛けてくるんじゃないかとか、仕事をさぼったりしてはいないか、まして、金のことになると、失敬、それはなかった。ただ、VRがさ、人前で堂々とみられる環境、つまり、部下との、信頼だよ。仕事はよどみなく進み、私がいなくても、接客までしてくれる。今は、スマホの需要が高いから、そんな楽はできないと思っていたけれど、チームでミーティングすれば、私の創造力を刺激してももらえる。スマートフォンといったものも、もう古いかな?」
「スマホが古いわけないじゃないですか!必需品ですよ、必需品。カードもいいですけど、基本的にこれ一個あれば十分じゃないですか。」
と、部下のコード46、ちなみに女性秘書であり――もう一つの顔も持つ――は言う。
「コード表だけでいいんですか?わたしたちの名前を知らないで。」
「いいじゃないか、顔を見ればだれかわかるし、データは嘘つかない。いや、データこそ全てだよ。」
「そんなことありません。」
「なら、どうして毎日、68度のコーヒーを私に届けるんだい?」
「誤解していたらごめんなさい。バリスタなんですけど、局長が購入し、設定した。」
「ああ、そうだったか。人は忘れることができるものだからなぁ。君が怒るのも無理はない。」
「それでは、今日の予定ですが、基本的になにもありません。」
「うちの会社は大抵僕のAIで動いているからね。君も、僕も、ここの給料を受け取ることには、何のうしろめたさを感じることはないのだよ。現に、ガードマン代わりの彼もね。コーヒーはいかがかな、コード011(オーワンワン)」
そうすると、局長室のドアの番をしていたコード011は、
「ありがたくいただきます。で、そのコードって、なんですか?」
「ゲームでよく、コード名って聞くじゃないか。それだよ。」
「女性にまで、コードというのは、行きすぎじゃないですか?」
コード011は、毎日のルーティンとして繰り返す。
「確かに、コードで呼ぶのは味気ないが、コードネームまで行くとどうだ。カッコいいだろう。カッコよくつけてもらいたくなる。でも、それじゃあ、セキュリティーチーム、NeWS(ネットウォーカーズ)の活動に支障が出るんだ、堪忍してくれ。」
「もう、わかってますけど。あとは、プライバシーポリシーにのっとってってことでしょう。」
コード46は言う。
「ただ、このチーム、まだ、仕事がないんですけど。」
「いや、わたしも、まさかVRが見られるほどまで打ち解けられると思ってなかったからね、最初は。でも、そんな時間まで仕事がないとも思ってもいなかったんだ。なにせ、サイバーテロの特殊任務だからね。」
「はいはい。それは察しております。」
コード46は言った。
しかし、その言葉は、すぐに打ち破られるのであった。
サイレンが鳴ると、
『何者かの、局内へのハッキングが開始されました。』
「AIの方から入ってきたか。ご苦労さんなことだね。」
「PC班に、追撃、任せますか?」
「何でもやってちょうだい、局長秘書も、局セキュリティー担当のコード011くんも。」
各自、パソコンを展開。連絡を待つ。
「コード46、情報はどうなりました?」
「まだ、Bルートを進行中です。」
「コード011。君の見解は。」
「ダミールートに、3秒後入ります。そこでロックして、逆探知開始します。」
「OK!」
回路図のようなものから、ダミールームとそこまでの侵入ルートがどんどん、明らかになり、各色に、ルートの経由地点が塗り分けられていく。
局長は、「地元の人の様だねぇ。海外経由もされないなんて、臨時で派遣された意味がよくわからない。小学生の悪戯だ。」
「そうですねぇ。」
「じゃあ、少し育てますか?」
「ひまだからって、いいんじゃない? 相手しなくても。」
「メッセージを残してますよ。『本当のハッキングは、予告してからいきますので。』って」
「お~い、何人目だ?」
「同一人物で5回目です。」
「今日の連絡は?」
「さぁ? 他の部署に回覧します?」
「コード46。緊張感に欠けてるぞ。疑問形はもうやめなさい。一応立派な仕事ですからね。」
「は~い。お仕事開始しまーす。」
と、PCの画面に渋谷の地図が展開されたと思うと、防犯カメラにつながった。いちいちマメにチェックしているが、この時間でこの数こなすというのはなかなかいないだろう。彼女は、毎日、シブヤの新しさを探している。しかし、これも欠伸顔だ。なにせ、シブヤに来てから、もう、数年も、同じことを繰り返しているからだ。人間観察以外に、何の刺激も何もなく、ただ張りつめた空気を作るだけの仕事。ブロックコードは、思い付きで適宜AIコントロールによって、先を越されてしまうし、頭はちょっと使えば、後は機械だ。
コード011は、いつものように、筋力トレーニングに勤しんでいた。
「局長、わたしたち、NeWSの役目についてですが。」
「ああ、ニュースが出たらね、「はなC」掲示板に書き込むことだよ。」
「最新情報は、6年前のビットコインビット事件ですね。」
「そう、通貨が砂金として返ってくるというビジネス犯罪だったね。」
「結局は、政府の見解で、電子マネーに換金してくれるという処置で終わっていたな。」
「おいしい話が多いですからね。」
「私は、都市伝説スマホっ首が来ると思うんです。」
「ああ、子供のうちからスマホを使わせてってやつかい。デザイン性によって、たまたまそうなったってだけの話で済んだはずだけど。」
「ところが、成長したスマホっ首世代が、そろそろ世代の中心に入ってくる時期なんですよね。」
「スマホっ首で、「はなC」を検索してみます。」
「おっと、それは局長案件だな。スマホっ首世代の逆襲か、」久々に外に出られるかもしれない。」
と、パソコンから「はなC」へアクセス。
「『面接官しね。』いきなり殺人予告か!」
「そんなのいっぱいあるじゃないですか。」
「パソコンより、スマホの方が普及率が高いのかな?」
と、口にすると、パソコンのウインドウにチャートが出る。
「『スマホっ首って、垂れ下がったら落ちるんだって』都市伝説的だなぁ。頭で考えない分、頭が軽くなって来たりしないものなのかね。」
「『スマホもガラケーもねぇよ、アプリ使えりゃ同じケイタイだ』結論が出たね。俺たちNeWSの出動だ。」
情報入手源に信憑性なしと、とりあえず、ぶらぶらしに街に出た。
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