付記 詞からの手紙
――――――――――
――――――――
――――――
これを読んでるってことは、相当まいってるってことだよな。
そりゃあそうだよな。逆の立場だったら――って、今さら考えて途方に暮れてる。
まずは、ごめん。
黙っててごめん。
いきなり消えてごめん。
自分でもわからないんだ。もうすぐ死ぬってわかったとき、葵には知られたくないって思った。なんでだろうな。おまえに知られるのがどうしようもなく怖かった。今でも怖い。
なんで怖いのか、考えてもわからなくて、考えれば考えるほど怖くなって、ツムにも口止めしたんだ。
もうすぐ死ぬなんていって、がっかりされたくなかったのかな。
うわあ、自分で書いててどん引きするわ。
ひでえなおれ。ごめん。ほんとうに、ごめん。
葵が気力を失ってしまっているとしたら、それはもう、ほんと、おれのせいなんだと思う。
どうしたらいいんだろうな。おれ、死んじゃってるしな。
怒っても憎んでもいいよ。それに、葵が葵の意志で表現者をやめるっていうなら、それもしかたないと思う。人生にはきっと、あきらめる勇気が必要なこともあるから。
だけど、おれをやめる理由にはするな。おまえの選択を、おれの責任にするな。それをしたら、いつか絶対後悔するから。それだけはしちゃいけない。
まえに教えてくれたよな。アオイ科の植物は
だからご両親は娘が生まれたとき、葵という名字に対して、どストレートに
おまえ自身、いつだって太陽を目指してきたんだろう?
だったらさ、おれの命くらい、涼しい顔で利用できるようになれ。
表現者でいるかぎり、どんな汚い感情を抱いてもぜんぶ武器にできる。どんな経験も宝にできる。そういってたのは葵だろ?
中には、
背負わずに、利用しろ。それも重荷に感じるなら、ぜんぶ捨てていい。
ぜんぶ捨てて、それから自分がどうしたいのか考えればいい。
おれもさ、残された時間でなにができるのか、ここのところずっと考えてる。
考えるまでもないとかいうなよ。今、自分でもそう思ったんだから。
どんなのがいいかな。おれたちの集大成になるような話がいいな。
完成したらツムに送っておく。もし気に入ったらつかってくれ。気に入らなかったらこれも捨てていいからな。
なあ、葵。おまえは、世界を目指せる女だ。
おれは本気でそう信じてる。
おれは、おまえやツムと出会えて最高にしあわせだった。
ふたりに会わなければ、自分の頭の中にあったイメージをカタチにするなんてこと、きっとできなかった。どれだけありがとうっていってもたりない。ほんとうに、ありがとう。
だから、たのむ。
おれに縛られないでくれ。
葵は葵の信じる道を進め。
おれは全力でそれを応援する。
見えなくても、聞こえなくても、ずっと、応援してる。
どうか元気で。
詞より
追伸
窓の外、晴れてんのに雨が降ってきた。いいな、これ。これでいこうかな。ラストシナリオ。
――――――
――――――――
――――――――――
(了)
空に走る 野森ちえこ @nono_chie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます