繋がりは時代を超える!~理想の異世界ファンタジーに出逢ってしまいました

胸がいっぱいで、レビューの形にならないかもしれませんが書かせていただきます。

始めは、わりとよくあるタイプのファンタジー作品だと思っていました。
王族が襲撃を受ける場面で始まる異世界歴史ロマン。伝承、伝説のアイテム、国を救う方法を探る旅――
ですが読み進めるごとに、気がつくとこの作品ならではの魅力に深く深くのめり込んでいました。

主人公は双子の王子。
兄・飛王は国に残って王族としての責務を果たし、弟・飛翔は旅に出て伝承の謎を解く。
まったく違う時代を生きることになった二人は、それぞれが数多くの出逢いと別れ、新たな発見を経験し、目覚ましい成長を遂げながら、国が守るべき『知恵の泉』の謎に迫っていきます。

物語全体を水のようにたゆまず流れているのが、数多くの人々の想いが織り成す悠久の歴史の流れ。
作中に繰り返し登場する、美しい織物のように。大切な人々との繋がりを横軸に、絶えることのない生活のひとつひとつの積み重ねを縦軸に。
武力に頼らず、静かで優しいながらも力強く生きていく。数多くのキャラクターたちの生きざまは、女性的ともいえる温かな空気に包まれています。
読んでいると、何度も何度も考えさせられます。人の生きる軌跡は、なんて尊いのだろうと。

味わい深い言葉が多く出てきますが、特に私の印象に残ったのが、ある老人の言葉「足るを知れ」。
「足るを知る」は老子の言葉ですが、この精神は作中に生きる多くの人物の根幹のような気がします。
みな、身分不相応な物を望まず、他人より多くを望まず、今ある物に感謝しながら慎ましい暮らしを送っています。この精神が、主人公・飛翔の「細工師」という職にぴたりとはまります。
暮らしに必要な物を、丁寧に思いを込めて作り上げる。長く大切に使い続ける。
人間がみなこの精神を胸にとどめておけば、それだけで多くの争いがなくなると思いませんか。

また、この作品は、私が異世界ものを読むと必ず一度は首をかしげる言語系統について、歴史的背景を交えてきちんと説明がされています。むしろ主要なテーマの一つです。
言葉にはそれぞれ、その民族の歴史、感情などが込められています。複数の言語が出てくるなら、複数の民族・国どうしの交流や争いの歴史が関わってきます。多くの異世界ものは複数の言語が入り乱れていますが、こういった背景もなしに響きのよさだけで使われる言語には、どうしても違和感を覚えてしまいます。
この作品には漢字名にカタカナ名、様々な名前が登場しますが、きちんと歴史的な由来が示され、さらに「エストレア語」という、デザインの美しい独自の言語まで登場します。
文字で表す作品だからこそ、文字をおろそかにしない。細部に渡り、作者の丁寧で奥深い仕事ぶりがうかがえます。

……と、長々と書いてしまいましたが、物語の主題は「双子が泉の伝承の謎を解く」ための出会いと別れの冒険譚、のはず。
そこはもう、知らない国を旅するワクワクな展開がたっぷり待ち受けています。難しいこと考えなくても絶対に楽しめますので、ご安心ください(笑)

歴史を紐解く考古学ミステリー。国と国との争いが生む悲劇。胸を焦がすようなラブロマンスまで。
これらがすべて、ぎゅぎゅっと詰まったすごく濃い作品なのです。なのに、たった23万文字?うそー…

ポイントをまとめますと。
「言語」をおろそかにせず、丁寧に扱っていること。ドラマチックな歴史ロマンの中で、慎ましく生きる人々の、ひたむきで尊い姿を描いていること。作品全体を、争いを憎み絆を紡いでゆく、優しい空気が流れていること。

どれもが、私が「こんな異世界ファンタジーが読みたかった!」と思えるものばかりです。ようやく「理想の異世界ファンタジー」に出逢えた想いでいっぱいです。
この出逢いに、心からの感謝を。
書籍化、してほしいです!(もちろんエストレア語デザイン入りで)

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