異世界転移ブラック無糖。余計なものは、なにもいらない。

周りの顔色を窺い、言いたいことも言えない気弱な少年、優輝。
彼の転機となるのは異世界への転移なのですが、そこは言葉はおろか表情すらも読みがたく、外見も人とは全く異なるトカゲたちの世界。

生きることに本気にならなければ死んでしまう過酷な自然のなか、気遣ってくれるような素振りを見せるトカゲのヌラと少しずつ絆を深め、生き抜きながら成長していく姿が読者の心を熱くする成長譚です。

運動の苦手で、当初は元の世界に帰りたくて泣いていた優輝は、力強く生きる術を、言葉は通じなくても心を通わせる人間らしさを、大切なものを見捨てない心の強さを少しずつ手に入れていきます。その人間らしさを与えてくれるきっかけが、最後の最後まで何を言っているかわからないトカゲなのを考えると。言葉も機微も分かる人間との絆を結ぶのなんて、互いが本気になればもっと簡単で誰も傷つかないはずなんですよね。

人との向き合い方を、改めて考えさせられた作品でした。


ところで、蔦のロープや各種の生物など、サバイバルのための描写が細かく、世界に引き込まれました。その重厚さが、過酷な環境を演出してくれていて素敵です。

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