ずっと真夜中で——

  ◆


 次に目を覚ましたのは自分の部屋の中だった。窓の外から見える景色は少し明るく、朝焼けは夕暮れのように寂しい色をしていた。


 もう誰もいないんだ。

 そういう実感だけが残っていた。私と、とげとげの背を持って私の前できゅうきゅうと眠っているうにぐり君の他にはもう誰もいない。


 そう気がついてからは部屋から一歩も出ることなく、ただ無為に日々を過ごした。時計の針は進むけれど、外はずっと薄明のまま変わらない。

 もうこの世界は壊れてしまっているのだろう。なぜだかそう感じられた。

 それはきっとこの壊れてしまった世界に取り残された私だけが知る感覚なのだ。


 それから

 もう眠くなることはなかった。

 お腹が空くこともなかった。

 悲しかったり嬉しかったりすることもなかった。

 寂しくなることもなかった。


 私は日々を思いのままに生きていた。だから私がある日玄関の扉を開けて外に出たのも気まぐれからくる行動だった。特に部屋から出られないということも無い。

 カラスが飛び立ち、それで空が少しだけ黒く染まった。


  ◆


 うにぐり君をフードに入れて、私はかつて友だちと一緒に下校した道をずっと歩く。なんとなく歩き続けていると、やがて学校に辿り着いた。

 下校する道を逆に歩いていたのだから当然なのだけれど。

 すっかり寂れてしまって廃工場のようにも見える学校は薄暗く、薄明の太陽を遮って夜を作り出しているようでもあった


 学校の中はよくわからないパイプやエアコンの室外機のようなもので埋め尽くされていて、教室の一つも見当たらない。薄暗くて足元も良く見えないので持って来ていた懐中電灯でそこらを探りながら、時折「いらっしゃい」とか「こっちだよ」とか壁に書いてあるのを頼りに奥へと進んで行く。


 怖さはない。何があっても所詮は壊れている世界のものだし、私だって壊れているようなものだ。


 進んで行くと、一つ部屋のようなものを見つけた。扉はなく、ただ入り口が見えるだけだったが、その奥に空間があるようだった。その空間から漏れ出た光が、校舎の作り出した夜の中で不気味に輝いている。


  ◆


 ——この世界は壊れてなんていなかったんだ。

 眩い光に照らされて私は素直にそう思った。轟音を立てている巨大な機械の奥にある、壁に埋め込まれた大量のモニターが映し出しているのは、様々な世界の光景だった。

 荒れた世界、

 平和な世界、

 ——友達の顔が野菜なんかじゃない世界。


 考えるよりも先に身体が動いていた。

 持っている懐中電灯をでたらめに振り回してモニターをぶち壊した。仰々しい機械も粉々にした。モニターや機械が壊れるほどに、私の身体にだんだんとヒビが入っていき、やがて私の身体も粉々に打ち砕かれていって——


 やがて全部終わってしまったとき、私の身体は夜に包まれていたんだ。

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【二次創作】昏くて、明るくて、眩しい。 TETSU @tetsu21

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