最終話 逝くときは一緒。一秒の狂いもなく、同時に逝くの。いいわね?
目を覚ますと、見慣れた天井だった。ここは、
上半身を起こすと、シーツが落ちた。アタシは裸だった。まな板並みの胸も、腹も腕も、どこにも傷が付いてない。
あっるぇええ?
死んだはずなのになあ。
「ん……」
すぐ隣でもぞもぞと動く。それは
パチッ。と彼女のつぶらな瞳が開く。
同時に彼女は立ち上がって、思いっきり平手を打った。
——バチィンッ!
いったあああい!
「なにす——」
言葉を吐き出すための口に栓をされた。暗喩ちゃんのやわらかくて瑞々しい唇が、アタシの唇に重なってる。あ、舌入って来た。え、うそうそ。いやぁん。これ以上描写したらレーティング引っ掛かっちゃうよぅ。らめぇ、頭がおかしくなっちゃうぅ、なんでキスだけでこんなに気持ち良くなるのぉ。
と、アヘ顔になっているに違いないアタシから顔を離して、暗喩ちゃんはアタシの口からだらしなく垂れるよだれを指で拭った。そしてグイッと頬をつねられる。
「怒ってる?」
「ええ。あなたがバカな真似をしたから」
「バカなのは暗喩ちゃんだよ! どうしてあんな状態で神経毒をばら撒いたの!? “
「それを助けるためにあなたがチェーンソーで首を
「あれ? そうそう、そうだよ。なんでアタシ生きてんの?」
「
だから走ってきてアイツに触ったんだね。あれ?
「でも、なんで故事成語さんは能力を使えたの? 封じられてたんだよね?」
「その前に、四文字熟語がぶつぶつ呟いていたのを覚えている?」
「なんか言ってたね」
「そのときに“
「“
「疑わせない技。彼の能力無効化の技は、自分にも影響を及ぼすはずなのに、“
おお。凄い。さすが故事成語さん。イェイ。
「でも、どっちにしても暗喩ちゃんはあのままだったら死んでたんだよ?」
「だから、どうして神経毒イコール死なのよ」
「え?」
「睡眠ガス」
「は……?」
あー、えー? 痛い子じゃん。アタシ。
「あなたは早合点が過ぎるのよ。それに、どんな状況になってもわたしのために死のうとか思わないで。重いのよ」
うぐっ! 重いとか言われた。うう、命懸けで戦ったのに。こういうのが重いのかな。メンヘラ女子の仲間入り? 嫌われたくないよぅ。
「そう言えば、アタシが助かった理由も暗喩ちゃんが睡眠ガス使ったのもわかったんだけど、なんで傷まで治ってるの?」
「四字熟語さんの“
「あー。さすが
「そうね。でもその前に」
暗喩ちゃんはそっと私を抱きしめた。ちょうど顔がおっぱいに埋もれる位置だったので、もみゅんもみゅんの巨乳を堪能させてもらう。やわらけ!
「早合点であれなんであれ、体を張って戦ったことに違いはないものね」
わーい、ご褒美タイムだー!
「でも、真実は死の先にはないわ」
ギクギクギクゥッ!
なんであのときアタシが本物に成れそうだって思ったのバレてるの?
「あなたがわたしの体を感じられるのも胸中に思いを馳せられるのも、ここに居るから。真実はいつだってここに存在しているものよ。あなたが直喩になったみたいにね。それに、一人で逝くなんて絶対させない。逝くときは一緒。一秒の狂いもなく、同時に逝くの。いいわね?」
「うん!」
一緒に逝く。なんて甘美な響きだろう。
あのとき、日常を切り離してこっちに来て良かった。暗喩ちゃんが言うように、真実はいつだって目の前に在って、それに気付けるかどうかってだけの話なのかも知れない。常識や今までの自分を疑うことが、真実に到達するための——暗喩ちゃんの傍に居るための方法なのかも知れない。
その真実をもう一度せがんだ。上目遣いに、甘えるような声を出して。
「仕方ないわね」
さっきよりも甘い甘いキスが落とされた。ふんわりと口の中が満たされていく。ああ、アタシはこれからもチェーンソーぶん回し系女子をやめられそうにない。
暗喩ちゃんと直喩ちゃん 詩一 @serch
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★137 エッセイ・ノンフィクション 連載中 50話
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