第三話 ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ——ぎゃるぎゃるぎゃるぎゃるぎゃる……
そうそう、そろそろそぞろ降りるの。敵の本拠地って言うか、アジトって言うか、
「今回のことはさあ、
緊張感のない故事成語さんの声が、
竜の背からぴょんと降りて、振り返って腕を広げる。そこに暗喩ちゃんが降りてきて抱きしめた。暗喩ちゃんは背が低いから、アタシが平気な高低差でも危ないんだよね。それにこうすれば抱きしめる口実にもなるし。顔を豊満な胸に擦り付けて、もにゅもにゅとした感触を両頬で味わう。ぐへへ。やわらけえなあ。アタシにも分けてほしいよお。まな板のアタシにも。
そして暗喩ちゃんが文句を言う直前を見計らって地面に降ろしたげるの。
「ありがとう」
って言うしかなくなるからねー!
「どういたしまして!」
さっきも実はお尻を撫で回したかったからギャル文字ちゃんの申し入れを断ったんだよね。ぽよんぽよんで気持ち良かったぁ。感触が鮮明なうちは生きていけそうだよ。
さてさて、目の前にはでっかい扉が行く手を塞いでいるけど、関係ないもんね。
「みんな下がっててー! やっちゃうよーん☆」
——ドォゥルンドルンドルンドルンッ!
チェーンソーのエンジンにイグニッションすると、エキゾーストノートが響き渡る。うひひっ♪ ドア越しにも伝わるかなあ。死ぬよ死ぬよ死ぬんだよぉ? これからみーんな死ぬんだよぉ?
アタシがチェーンソーを縦に横にとぶん回しまくったら、扉が音を立てて崩れ去ったよ。中に入って全員ぶっちぶちに切り刻んでやるんだから。とうっ! さてさてぇ……って多っ!?
中には50人くらいのザコどもがうんじゃりうんじゃり居たんだよお!
「おっと、こりゃあやる気だねえ」
遅れて入って来た故事成語さんはさすがの余裕。
「そんじゃあ、ま、“
言葉を放った瞬間に部屋中が真っ白な霧に満たされた。50cm先も見えないくらい。自分の肘から先が見えないくらいだ。
「わたしは、霧」
暗喩ちゃんの言葉が聞こえた。多分暗喩ちゃんが隣を通り過ぎたはず。はずって言うのも、見えないから。少し時間がしてからまた声が聞こえる。
「わたしは、毒」
え。ちょ、ま——
「“
後ろから故事成語さんに掴まれ、抱きしめられた。と、隣にはギャル文字ちゃんもいる。片腕ずつで抱かれている状態。故事成語さんの腕がギャル文字ちゃんの爆乳に食い込んでる。ぐにゅりって。痛くないのかな。彼女の顔を見上げると、小麦色の頬が赤く染まっている。淡いピンク色の唇がプルプルッて震えてる。
しばらくするとドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサって地響きがした。これ、もしかしてさっきのザコどもが
「わたしはわたし」
その声が聞こえたあと、故事成語さんは“
それにしても、痛みもなく死んだんだねえ。すっごい安らかな顔してるもん。暗喩ちゃんに逝かされたんだねえ。羨ましいねえ。ああ、意味もなく死体を切り刻みたいよ。これは多分嫉妬だね。でもダメ。こんなところで油を売ってる暇はないんだから。
奥に続く部屋の扉はめちゃ普通の扉だったから、アタシはめちゃ普通に蹴破ったよ。
——ドーンッ! ってね!
また数十人くらい居るけどあーもう数えるのめんどいから全員キルだよーん!
チェーンソーで床をギャチりながら右へ左へ体をふらっふらって振って近寄っていく。直線で進むよりこっちの方がビビるんだよね。
「ちょりゃああ!」
ビチビチビチビチッ! 肉が裂ける音。エッジに絡みつく音。血が飛び散る音。
ボキボギャボギギギギギッ! 骨が砕ける音。
メイキング・ザ・
あ、一人斬り漏らしちゃった。
ザコAがアタシの横を通り過ぎて真っ直ぐギャル文字ちゃんの方へ向かって行く。ナイフをビュンって投げた。
「ャバぃ」
ギャル文字ちゃんがそう言うと、ナイフは空中で進路を変更して、地面に落ちた。
「ゥケるw」
すると走っていたザコAがその場ですっ転んだ。
仰向けに寝たまま、なにが起きているのかわからないって状態のザコAの足元にギャル文字ちゃんが立つ。
「マジャバぃょね」
——バァン!
たくさんの濁音を飛び散らせて、ザコAの胸は破けて血みどろになった。
なんだかんだ言ってギャル文字ちゃん最強説だよねえ。さっきのも「(このまま突き進んできたら)ヤバい(けどその前にナイフが落ちるよね)」とか「(なにもないところで転ぶなんて)ウケる」とか「(いきなり心臓がぶち壊れて死ぬなんて)マジヤバいよね」とかって言う感じで、ギャル文字ちゃんが成ってほしい未来を想像しながら「マジ」「ヤバい」「ウケる」の三つの言葉を放つとその通りになるんだから。マジヤバいのはギャル文字ちゃんだよ。ウケるんですけど。
でもギャル文字ちゃん曰く、少しでもニュアンスが違うとまったく発動しない能力だから激弱らしい。今ので説得力皆無になったけどね。
フロアの敵を撃滅させて行ったら、いよいよ最後の扉に行きついた。
「この先に四文字熟語がいるだろうねえ。お三方とも、気を引き締めてねえ」
「故事成語さんが一番締まってなぃょ」
「そーかもねー。んでもま、オイラは本気だよー。なんてったって、うちのボスの技を紛いなりにも使えるんだから」
そうだった。ボスは強い。それをパクるやつも強い。言えてる。
暗喩ちゃんがアタシの肩に手を置いた。なに? 勇気付けるためにキスしてくれるの?
「万全を期すわ」
違うっぽい。
「わたしは、影」
その言葉を聞いたら暗喩ちゃんのこと、見えなくなっちゃった。実際は消えたわけでも影になったわけでもないよ。影みたいに存在感がなくなったってこと。
ギャル文字ちゃんを見る。故事成語さんを見る。みんな準備万端みたい。
扉を元気よくバコーンッて開けると、四文字熟語のクソ野郎が眉間に皺を寄せて、こっちを睨んできた。しかもなんかぶつぶつ言ってる。はあ? 何様なの? バカなの死ぬの? アンタなんかがアタシたちを睨む権利ないし、眉間に皺を寄せる権利もないし、なんだったら呼吸する権利もないんだから。つまり、ぶっ殺すん
「“
アタシが近づこうとした瞬間に、やつから発せられた言葉。これ、どういう効果? 取り敢えずアタシは大丈夫そう。
「なんてーのか。らしーことしてくれるねえ」
故事成語さんはくせ毛をかき上げて大きなため息を吐きだした。片眉を下げて、困ってる感が伝わってくる。
「ぴぇん。こぇてぱぉん」
ギャル文字ちゃんは片手を上げてひらひら振ってる。ぴえん。悲しいときにも嬉しいときにも使われて深刻さは伴わないって
「どゆこと?」
「今のでさー、能力封印されちゃったんだよねえ」
ええええ!?
ああああ!?
なにそれ強過ぎんじゃん! チートだよチート! あ、でも待って。アタシの体は動くしチェーンソーも止まってない。ってことは、アタシの見せ場? なんだよそれならそう言ってよ。ぎゃりっぎゃりにしてあげるんだから☆
向き直って走り出す手前、またやつが言葉を放つ。
「“
今度はなに? まあでもアタシには効かないけどねえ!
「やめとこーか、直喩ちゃん」
へあ!? なんで?
「今ので与えた攻撃が跳ね返るようになったんだよねえ。つまりー、相手の腕を切り落としたら、君の腕まで切り落とされるようになっちゃったんだよねえ」
だからチートじゃんよおお!
でもでも! このままアイツに言わせといたら、こっちが追い詰められちゃうだけ。アタシがなんとかしなきゃ。
アタシは故事成語さんの制止を振り切って、四文字熟語に突っ込んだ。
チェーンソーの切っ先を、太ももに当てる。
——ヂョインッ!
痛っ——!
「ぐあああ! お前、バカなのか!?」
バカはアンタでしょー? べろーっと舌を出して、ニヤリと笑う。
確かに、足は痛いよ。血も出てる。ぎゃりぎゃりに斬り刻むことは出来ない。けど、相手を降参させることならできるかもしれない。
だからアタシはダンスを踊るようにチェーンソーを振り回した。
皮膚を刻む血のビート。くるん、くるんと回って、タッタタッタとステップを踏む。その度に上がる
息が上がって、どんどん動きが鈍くなっていく。体に力が入らなくなっていく。正直しんどい。でもここでアタシが攻撃の手を休めたら、なんかまた技を使われちゃう。そしたら今度こそ終わりだ。トリプルチートは絶対勝てない気がする。
それにしても怠い。なんでだろ。もしかして、息が上がってるのって、アタシの体力がないからじゃあなくて……。だとしたら、気付かせちゃあダメだよね。アタシは最後まで踊り狂うよ。死ぬまで踊りたい気分なんだ。だってこいつをぶっ殺したら四字熟語せんせーが助かるんでしょ? そしたら暗喩ちゃんが喜ぶから。ただそれだけのために、アタシは——ヤバい、意識が、飛び飛びになって来た。やっぱり。じゃあ……。あれ? でも、これだと、“
アタシはチェーンソーを振りかぶった。やつは虚ろな目で刃先を見ている。これなら避けられないよね。首を
「そーゆーことかい」
故事成語さんの声が聞こえた。アタシが死を覚悟してコイツを殺そうとしていることに気付いたのかな。足音が近づいてくる。ダメだよ。巻き込んじゃう。故事成語さんの手がヤツに触れる。引き離す気? でも逃さない。
チェーンソーを振り下ろした先は地面。火花が散る。すぐさま構え直す。突きの構え。チェーンソーの先端を首元に向け、突き出した。正確に咽喉に当たり、皮膚が裂ける。ああ、これで助かる。暗喩ちゃん。アタシ、本物にな——ぎゃるぎゃるぎゃるぎゃるぎゃる……
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