第55話
それから数日間は父の通院の関係もあるので現地で過ごした。父の自宅部屋は狭いということで近所にある小さいけど設備の良いホテルに僕は押し込められていた。
父はまだ元気に歩き回ることも出来ないので、僕はマリーさんか鬼頭さん、後はやたらと関西弁なジャンさんという方々の世話になり、ちょっとした観光をしたり食事に行ったりしていた。
もうそろそろ日本に帰りたいと思っていたところにさっき父から大事な話があるというので、父のマンションを訪れている。
「なに? 大事な話って」
だいぶ血色の良くなった父の身体にマリーさんがもたれ掛かっている。
交際はしていなかったがこの二人の付き合いはもう三年を越えているという。そこに父の決心がついたということですっかりラブリーな関係に収まった。
父は確か四二歳で、マリーさん歳はなんと二九歳……一回り年下かよ!
「そろそろ貴匡も日本に帰らないといけないのでは思ってな」
父親はマリーさんの腰に手を回しながらそう言ってきた。
「そうだな。僕もそのつもりだったよ」
親が出す甘ったるい雰囲気ってなんだか恥ずかしいものだ。思わずぶっきらぼうに答える。
「そこで、明日がマリーの三〇歳の誕生日なので、それを機に結婚しようと思う。どうだろう?」
「ふへ?」
藪から棒すぎて変な声出た……
「いや、明日マリーと私は結婚しようと思うんだけど、貴匡はどう思う? 許してくれるか?」
「いや……二回も言う必要ないから。おめでとう。やっと踏ん切りつけたんだな」
「「ありがとう、貴匡」」
もう息ピッタリとは……
「それで、明日こっちで籍を入れたらそのまま母さんの墓前に報告しに行くつもりなので、お前も一緒に連れて行くから、帰る準備しておけよ」
「はあああ? そういうことは前もってちゃんと連絡しとけよ! クソ親父は役付だろ? 部下いっぱいいるんだろ? 報連相は基本じゃ無いのか⁉」
来た時もだが帰る時も慌ただしく鬼頭さんのたちに見送られ彼の地を飛び立つ。
父とマリーの結婚式は日本とあっちで二回やるんだって。
マリーナさんの呼び方もマリーさんからマリーって呼び捨てに変わった。流石にマミーは全力で断った。
父とマリーは暫く日本に滞在して各方面に挨拶回りをする予定。僕は当然ついてはいかない。お断りです。
そうなると二人は住む場所が無いが、勤め先が社員寮にしているマンションの一部屋を用意してくれたみたいだ。
なら憂いはないということで、とっとと成田で別れて僕はひとり瑞穂のもとに向かおうとしていた。
「貴匡。私達も今日は一緒に行くからな?」
「どこへ?」
「お前ん所。かすみ荘だっけ?」
「は? なんで? 父さんたちは会社の寮に行くんだろ?」
「色々心配かけてしまったし、そもそも貴匡がご厄介になっているのだから親が挨拶しに行くのは当然だろう?」
「……ぐぬぬ。でもあっちの予定もあるから聞いてみないとだぞ」
間違っている気もしないでもないけど、反論できね。無言で瑞穂に事の次第を連絡しておく。
送ったメッセージはすぐに既読になり『準備万端で待っているね~ 早く会いたいよ~』と直後に返信あり。
「なんか、大丈夫みたいだよ。行くか……ちっ」
数度の乗り換えで最寄り駅まで着た。駅前のロータリーには純生さんと瑞穂が迎えに来てくれていた。
手荷物を放り捨て瑞穂に駆け寄る。
「あああ!瑞穂!」
「たっ、貴匡くんっ!」
ロータリーの歩道で思いっきり瑞穂を抱きしめ、口づけまで交わしてしまった……途中で気づいたけどここはもう日本。
あっちで何回も見ていたら感覚が麻痺していたようだ。
ここで恥ずかしがったら負けな様な気がするので、そのまま数十秒続けて抱きしめあった。
「たかまさくん。逢いたかった……ちゅき」
瑞穂のスイッチ入ってしまったようだけど、今日は父親とマ……両親が泊まるだろうから我慢してほしい。僕も一緒に我慢するから……
ちらりと父の方を伺ってみたが、純生さんとごく普通に挨拶をしていてこっちには視線を向けていなかった。ご配慮アザーっす。
かすみ荘に戻ると、おばあちゃんと鉄平、ゆかりまで僕の帰りを待っていてくれた。
父の無事と結婚を祝ってくれ、ゆかりなど僕の父との久しぶりの再会に号泣していた。
もちろん僕自身がちゃんと帰って来たことにもおかえりと言ってもらえた。
二週間ちょっとだったけど、なんとも濃密な時間を過ごしてきた。
スタスタ歩くおばあちゃんにもベッタベタしている鉄平とゆかりにもだいぶ驚かされたけど皆変わりなく良かった。
時差のせいなのか、まだ日中だというのに、もう眠くって起きているのが辛い。
「貴匡くん、お風呂はいる?」
「うん。頼むよ、瑞穂」
「はーい。実はもう用意しています~」
「ありがと……入るよ」
殆ど夢の中だったけど、瑞穂に風呂場に連れて行かれて、服を脱がされて……一緒にお風呂入って……
途中……下腹部が凄いことになって……さっぱりしたところで、ベッドに運ばれて寝た。
当然ながら、瑞穂を抱きかかえて寝た。
相当疲れていたらしく、丸一晩寝続けて、時差はあっさりとリセットされた。
「う~ん、翌寝た! ん? なんでぼくは、はだかなのかな??」
「おはよ、貴匡くん。昨日お風呂で寝ちゃって、パジャマを着せるのも大変だったからそのまま寝てもらったの。ただそれだけ……よ?」
パジャマは仕方ないと思うけど、下着ぐらいは穿いた記憶があるのだけどな……瑞穂もマッパだし。まあいいか。
両親は既に朝食を食べ終わり、食休み中だった。
「おはよう」
「「おはよう(Good morning)!」」
おばあちゃんの久しぶりの食事を堪能していると、父が僕と瑞穂に今日の予定を言ってくる。
「貴匡、あと一時間後ぐらいにはここを出て、母さんのお墓参りに行くが、お前も着てくれないか?」
「ああ、もちろん行くさ」
「で、よかったら、瑞穂さんにも一緒に来てもらって亡くなった妻に挨拶をしてもらえないだろうか?」
「はい。是非にでも」
「よかった。では、一時間後に出発だ。駅まで行ってレンタカーを借りるから」
「母さん、もう父さんも大丈夫だと思うよ。ここまで来る間の父さんとマリーの様子を見ていたでしょ? 母さんも安心できたと思う」
(……)
「この子が瑞穂だよ。可愛いでしょ? 僕はこの子とこの先ずっと一緒にいたいと思っている。まだ僕も瑞穂も子供だからこの先いろいろな困難もあると思う。だけど二人なら乗り越えられそうなんだ」
(……)
「うん、頑張るよ」
父さんもマリーも目を瞑ってずっと母に話しかけている。
ふと瑞穂を見ると、涙を流しながら、こくんこくんと頷いている。
後で聞いてみたら「お母さんの声が聞こえた気がしたの。『貴匡をよろしくって』だから私もよろしくおねがいしますねって答えたんだよ」と言っていた。
父さんたちは僕らを最寄りの駅に降ろすとそのまま会社の寮に向かっていってしまった。
これから結婚の報告とか事件の概要の説明とか忙しんだって!
「貴匡くんっ」
「ん?」
「はい!」
瑞穂は元気よく手を出してくる。
僕はその手をしっかりと握って離さない。
「さあ。行こうか」
「うんっ」
「貴匡くんっ、今夜は寝かさないよ」
「おばあちゃんがいるだろ?」
「え? 聞いていないの? もう北海道に戻ったよ」
「じゃあ……」
「今夜からまた二人きりだよ!」
「OK! 会えなかった分も含めてたっぷり行くから覚悟しときなよ!」
「ふっふふ。貴匡くん。それは私のセリフだよ!」
「早く行こう!!!」
僕ら家族は未来へと駆け出す。
おしまい
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
やっぱりみんな幸せになって終わるのが良いですよね?
感想と★お待ちしてしております。
うちの大家さん(の孫)が可愛くて仕方ないんですけど、僕はどうすればいいでしょうか!? 403μぐらむ @155
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