これから続く毎日を歩む

「……私はね、自分の寿命なんて知らないわ」


 進む。七日目から八日目へ、彼女が立ったまま進む。


「ずっと変わり映えのしない世界で生きるなんて、そんなのごめんよ」


 何も無い一生が分からないだけ続くなら、終わった方がいいと思わない?

 落ち着いた口調で、彼女は語る。整理、とりあえず彼女の話を繋げていく。


「寿命が残り一週間って言ったら、簡単に信じてくれたわ。引き取り手が見つからなければ、処分することになるとも言ってくれたし」


 つまり、俺もあの店員も騙されていたのだ。そう言うならそういうものなんだなと、なんて思って納得した。


「……ご主人様に買われて、嬉しかったのは本当よ? 何かが変わるなら行きたかったし……もしかしたら、外の世界に出れるかもしれなかったじゃない?」


 実際はそうしなかったのだけど、くすくす。

 そんな言葉を続けて、くすくすなんて言葉でつけて。


「……じゃあ、どうして行かなかったんだ?」


 そのための約束を、彼女は自分から拒んだ。

 その理由がわからなくて――、


「ご主人様は、ちょっと鈍感なんじゃないかしら」


 そんな、一言を。


「綺麗な絵を渡されて、特別だなんて言われたら、ホムンクルスだって恋に落ちるのよ? ……なんて、少し大袈裟かしら?」


 彼女が静かに微笑む。唖然としていた俺も、釣られて小さく笑ってしまう。


「さて、ご主人様……一つ、約束しないかしら?」


「……どんな?」


「これから続くあなたの毎日を、私が支えてあげるわ。変わりに、これからの毎日、私をここに置いて欲しいの」


 どう? なんて彼女が聞いて、返す言葉はただ一つ。ああ、少し前にもこんな話をしたな。なんて、静かに思いながら。


「私のご主人様、これからの毎日……良い関係でよろしくね?」


「ああ、もちろん」


 七日間で、大きな変化はなかった。

 彼女以外の誰かのことは描けないし、なにか救われたわけじゃない。


 何日あったら変化が起こるか。

 それは、今から確かめていくことになるんだろう。七日目から八日目へ、きっとそうやって、終わるまで世界は続くのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホムンクルスを買った、一週間で死ぬらしい。 響華 @kyoka_norun

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ