七日目の夜に

 ホムンクルスを買った、一週間で死ぬらしい。

 ――それが、一週間前のことだ。彼女は今日死ぬらしい、ホムンクルスについて詳しくないけれど、彼女がそう言っていた。


 ……七日間。長いようで短い、ちょっとだけ変わった一週間だった。なにか大きな変化があった訳じゃない、世界は平和にならないし、俺は彼女以外の誰かの顔を描けるようになったわけでも、無い。

 それでも、一つ言えることがあるなら……この一週間は楽しかった。それだけは、絶対だ。


 チクタクと時計の針が進む音だけが響く。

 見つめるものはスケッチブック、その奥にいる彼女の姿。今日になってから、彼女は一言も喋っていない。ただ昨日見せた絵をじっと見つめている、まだ生きてはいるみたいだ。


 時計の音が世界を刻む。窓の外はゆっくりと暗くなる。

 彼女の言った一週間の寿命は、ちょうど今日が終わるまでなんだろうか。ホムンクルスなら、そういうこともあるんだろうけれど。


「……ご主人様」


 もう少しで、日付が変わる。彼女が話しかけてきたのはそんなタイミングだった。

 綺麗な肌と深い瞳、透明な髪に――優しい笑顔。静かに、優しい声で彼女は言葉を続ける。


「この一週間、私と一緒にいて……楽しかったかしら?」


「うん、とっても」


「……私が死んだら、泣いてくれる?」


「……どうだろうな、付き合いは一週間だ。でも……寂しくは、なると思う」


 それだけ聞ければ十分と、彼女は少し満足気に。

 時計が進む。彼女はじっとこちらを見て……そして、今日が終わる前に一つ。そんなふうに質問を投げてきた。


「ご主人様は、私の寿命をどうやって知ったの?」


 突拍子のない……もっと言えば、少し変な質問だった。彼女がそう言っていたと、お店の人に聞いた……それが理由で、


「じゃあ、重ねてもうひとつ聞かせてもらうわ」


 音が、止まる。


「あなたは、自分の寿命を知ってる?」


 ――時計から、日付の変わりを告げる音が鳴る。

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