5 遊園地デート② ~嘘偽りのない幸せ~

「ごちそうさまでした!美味しかったです」


 ぱちんと両手を合わせる。

お世辞ではなく、丁寧に作られたサンドイッチは本当に美味しかった。

手作りの弁当なんて母親にしか作ってもらったことがない。

というのはココだけの話だ。


「よし!午後は何からいく?」


「頼むから食直後に絶叫マシンはやめて」


 流石に食べてすぐに絶叫マシンはキツい。

俺と茉莉花は腹ごなしに少し歩くことにした。

キャラクターグッズなどを売っているショップがあったので入ってみる。

ところせましと、キーホルダーなどのグッズやお菓子などが置いてある。


「可愛いー!」


 茉莉花はグッズを手にとって見ている。

女子たちは、キーホルダーやボールペンなどを友達でおそろいで持つのが好きだ。

仲良しグループでおそろいのモノを持つ。

一種のステータスみたいなものだ。


「茉莉花もこういうのグループでおそろいにするの?」


 キーホルダーを手に取っていた茉莉花が顔を上げる。


「そうだねぇ。オンナノコっておそろいが好きだから。多少好みじゃなくても使わざるを得ないから少し面倒なんだけど」


 内緒だよ、と茉莉花はいたずらっぽく笑った。

好みじゃなきゃ貰うだけ貰って使わなきゃいい、というわけにはいかないらしい。

オンナノコという生き物は、たしかに面倒だ。


「でも、せっかくだからペアのキーホルダーとか買おうよ。カップルっぽいやつ」


 茉莉花は次々とペアのキーホルダーを手に取り見ている。

正直こういうのはよくわからないので、茉莉花の後をついて歩いているだけになってしまう。

だけど、茉莉花が見ているのは正直男の俺が持つには可愛らしすぎるものが多い。


「あのさ、もうちょっとシンプルなのにしない?」


「えーいいじゃない。こんなのは?」


 茉莉花が持っているのはクマのぬいぐるみが半分に割れたハートを持っているキーホルダーだった。

2つのキーホルダーを合わせるとハートが完成する、よくあるタイプのペアキーホルダー。


「だから恥ずかしいって」


「えー!私とペアのキーホルダー持つのが恥ずかしいってこと!?ひどい!!」


 茉莉花は大袈裟に言って泣き真似をしている。

声が笑っているので、リアリティはない。


「そもそもハートが割れてるのってどうなの?」


 常々気になっていたが、こういうハートを合わせるペアグッズはよくある。

ふたつを合わせてハートができるという趣旨はわからなくはないが、実際ハートが割れた状態なのはどうなのか。

普段は割れたまま、それぞれが持っているわけだ。


「尚也くんてさ、夢がないよね。血も涙もない男なんだ」


「話が飛躍しすぎだから!」


 茉莉花はふくれっ面で持っていたキーホルダーを戻した。

俺はその隣にあったキーホルダーを手に取った。

遊園地のキャラクターの横顔の形をしているシルバーのキーホルダー。

それぞれピンクとブルーのラインストーンがついている割とシンプルな物だ。

こういうのならまだ俺が持っていても変ではない。


「これって2つあわせるとチューしてるんだ。尚也くんはこういうのが好きなんだね」


 茉莉花が同じキーホルダーを手に取り、俺が持っていたキーホルダーとくっつける。

横顔なのでキスをしているようになる。

キーホルダーの意味に気づいた俺は思わず絶句した。


「血も涙もないのにチューはしたいんだね。そっかそっか」


「だーかーらーっ!」


 案の定、茉莉花にからかわれた。

茉莉花はクスクス笑いながら、それでもとても大切そうにそのキーホルダーをそっとカゴに入れた。


 会計を済ませたあと、ペアのキーホルダーはお互いのバッグにつけることにした。

お揃いで揺れるキーホルダーはなんだか照れくさい。


「じゃあ、次はあれに行こう!」


茉莉花はにっこり笑って走り出す。

可憐な花が咲いたような笑顔だ。

「高嶺の花」なんて言われているのもあながち嘘じゃないような。

ペアのキーホルダーが揺れて輝いていた。

茉莉花の体力は留まることを知らず、その後もノンストップでアトラクションを楽しんでいた。


あっと言う間に夕方になる。

陽は傾き、空は茜色。

茉莉花に付き合い、ヘトヘトになった俺は空を見上げた。

空の端は濃い群青。

グラデーションがとても綺麗だ。


「尚也くん。最後に観覧車に乗ろうか」


 茜色に照らされた茉莉花が言う。

そろそろ帰らなくてはならない。

楽しい時間が終わろうとしている。


 観覧車にはそれほど待たずに乗れた。

ゆっくりと回るゴンドラに乗り込み、俺は自然と次に乗り込もうとしている茉莉花に手を差し伸べた。

動き続けるゴンドラに乗り込むのは不安定になるだろう。

ただそれだけだ。

決して他意はない。

茉莉花は一瞬驚いた表情を浮かべたが、そのまま俺の手を取ってゴンドラに乗り込んだ。

扉が閉められ、向かい合って座った。

少しずつ上昇していく。


 観覧車のゴンドラという密室になったせいか、ふたりきりでいるということを意識してしまった。

緊張で身体が固くなる。

そもそも今日一日ずっとふたりでいたはずなのに。

俺は茉莉花を見ていられなくて、外の景色に目を向ける。

夕陽に照らされた街並みが美しい。

真下には今日を過ごした遊園地。

あの線路の向こうには俺たちが住む街があるのだろう。


「観覧車のてっぺんって死角なんだよ。世の中のカップルたちはその死角で何してるんだろうね?」


 茉莉花が唐突に言った。

思わず茉莉花を見ると不敵に微笑んでいる。

その瞳に吸い寄せられるように、俺はぎごちなく茉莉花の隣に移動した。

観覧車は間もなくてっぺんだ。


――初めて交したキスはほんの少し触れるだけのキスで。

それが、あの頃の俺の精一杯だった。

それでも茉莉花は幸せそうに笑っていたんだ。

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嘘つきな彼女 結羽 @yu_uy0315

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