4 遊園地デート① ~嘘のない笑顔~
日曜日。
俺と茉莉花は地元の駅前で待ち合わせしていた。
少し早めに来たはずだった。
だけど、茉莉花はもうすでにその場所にいた。
考えてみれば私服を見るのは初めてだった。
思わず、俺は足を止めた。
通りの向こう、茉莉花はまだ俺に気づいていない。
長い髪を今日はひとまとめにアップにしている。
ふんわり柔らかそうなフリルのついた淡いピンクのブラウスに淡いブルーのデニム。
足元はスニーカーで意外とカジュアルだ。
いつもの制服姿とは印象が違う茉莉花を遠目に見た。
ふと周りを見渡した茉莉花と目が合う。
見ていたことに気づかれないように俺は歩き出した。
俺に気づいた茉莉花はニッコリ笑って手を振った。
「おはよ。待った?」
「おはよー!今来たとこ!……って言ってみたかったんだよね」
茉莉花は屈託なく笑っていた。
俺たちは遊園地に向かう電車に乗った。
ちょうど座席が空いてたので並んで座る。
「今日、楽しみにしてたんだ!」
俺も今日は余計なことを考えずに、ただ楽しもうと思っていた。
茉莉花と一緒に。
遊園地までは一時間程。
茉莉花と他愛ない話をしている間についた。
オープン直後の遊園地はたくさんの人がいた。
家族連れやカップルたち。
俺たちとその中のひとりに見えるのだろうか。
久々に来た遊園地に実はすこしわくわくしていたりする。
入園チケットを買うのに少し並ぶ。
順番が回ってきてチケット2枚購入した。
支払いをしようと茉莉花が財布を出している間に俺はさっとふたり分のチケット代をトレーに出した。
俺はきっちりふたり分のチケット代をポケットに仕込んでおいたのだ。
デートだというのなら俺だって少しは格好つけたい。
お財布には痛いが。
「え?自分の分ぐらい出すよ?」
「いいんだ。行こう」
ちょっと照れくさくなって、俺は先に歩き出した。
すぐ後ろで茉莉花の小さな含み笑いが聞こえた。
俺が照れているのに気づかれたようだ。
「……ふふ。ありがと」
中に入るとエントランスは広場になっていた。
たくさんの人たちが写真を撮ったり、キャラクターの着ぐるみと握手やハグをしていたり。
そのざわめきは高揚感にあふれている。
「なんか、遊園地なんて久しぶり。尚也くんは?」
「俺も何年か前に行ったきりだよ」
友だちと行ったのが最後か。
高校生にもなると家族で遊園地になんか行ったりしない。
「ふぅん。それって女の子と?デート?」
「ち!違うよ!男友だちとだよ!」
俺が慌てふためく姿を見て、茉莉花はニヤニヤしながら楽しそうに俺を見ている。
どーせ、遊園地デートなんかしたことないですよ。
「ふぅん。……初めて……なんだね」
「頼むから、意味深に言わないでくれ」
まだ入口なのにすでに茉莉花に振り回されている。
今日の一日が思いやられる。
俺、無事に帰れるかな。
「よし!行こっか」
茉莉花が最初に向かったのはこの遊園地の目玉でもあるジェットコースター。
世界一の高さだかスピードだったか何かを売りにしたジェットだ。
「これ、乗るの?」
「うん!って、尚也くんもしかして絶叫マシンだめ?」
「いや、大丈夫だけどさ」
むしろ意外だった。
茉莉花の方が絶叫マシンとか怖いって言いそうな気がしていた。
ましてや、絶叫マシンをハシゴするタイプにはどう見ても見えない。
午前中いっぱい絶叫マシンに付き合われ、すでにヘトヘトだ。
「さすがにそろそろ休憩しない?もうお昼だし」
止めないと延々と絶叫マシンに乗り続けそうな茉莉花に提案した。
茉莉花はまだまだ元気そうだが、俺の体力がそろそろ持たない。
「そうだね。お腹空いたしね」
俺は持っていたマップを覗く。
ちょうど近くにレストランがあった。
昼時だから混んでいるかもしれないが。
「とりあえず、レストラン行ってみる?」
茉莉花はにっこり笑って、首を横に振った。
そして、持っていたバッグを持ち上げる。
「お弁当、あるよ」
俺たちはベンチとテーブルが並ぶ飲食スペースへ行くことにした。
偶然にも空いている席があり、ふたりで向かい合ってすわる。
お弁当のお礼にと、自動販売機でお茶を買った。
手作りのお弁当。
自然と顔がニヤけてしまう。
「はい、どうぞ。簡単なものだけど」
そう言って茉莉花がお弁当の蓋を開ける。
そこには色とりどりのサンドイッチが並んでいた。
ひとつひとつ違う具材が丁寧に挟んであり、とても美味しそうだ。
簡単なもの、なわけがない。
時間と手間をかけて作ってくれたのだろう。
「うわ!美味しそう」
思わず声を上げる。
茉莉花は嬉しそうに笑った。
「さ、食べて食べて」
――この時の茉莉花は本当に楽しそうで、ずっとはしゃいで笑っていた。
この時だけは嘘のない笑顔だと俺は今も信じているよ。
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