メイドロボにおパンツ見せてもらいたいSF

永久凍土

I need to see the maid robot's underwear.

「初めまして、ご主人さま」


 小首を僅かに傾げ、柔らかな微笑みを浮かべたヘスはとても可愛い。

 リビングの隅に立て掛けられた倒立型専用ケースから一歩外へ踏み出したヘス。自らが滞在する部屋の情報収集のため、辺りをぐるっと見回した。


 僕はこの春、ヘカトン・ダイナミクス社がサービスを開始した「ロボっメイド」シリーズのアンドロイドHES0930、通称「ヘス」を契約した。

 花びらのようなフリルが付いたエプロンは胸下でぎゅっと絞られ、プリーツが入ったミニのワンピースとニーソックスが作り出す絶対領域が眩しい。

 身長一五〇センチの前髪ぱっつんベリーショート、大きな瞳にふっくらとした頰。オプションの黒縁眼鏡が愛らしさを一層引き立てている。

 メイドと言うよりコスプレだ。


「で、あの、早速、なんだけど………」


「HES0930」と刻印されたプレート付き髪飾りがヘスをアンドロイドと見分ける外観上の差異。知らなければ生きた普通の女の子と区別が付かない。

 実際、僕がヘスを選んだ最大の理由はそのキュートな外観ルックスに一目惚れしたから。サブスクリプションなので支払いもリーズナブル。身の回りの世話をしてくれる等身大のフィギュアだと思えば、安くはないが決して悪い買い物ではない。

 特に独り者の男子としては。


「その……」


 ヘスは僕からの最初のリクエストを大きな瞳を見開いて待つ。

 僕は昂った気持ちを抑えるために一度だけ深呼吸。この日のために胸の中でずっとしたためていたある言葉を口にする。


「パ、パンツ、見せてもらいたい」


 当然だ。男子たる者の必然の興味である。

 美少女フィギュアを買ったことがある者なら、それが極めて正しい所作だと理解できるはずだ。

 何もおかしくはない。何もおかしくないから当然である。(進次郎構文)


「新商品の発売順になさいますか、それとも価格が安い順?」


 ヘスは人差し指を顎に当て、上目遣いの和かな表情を崩さない。


「い、いや、通販サイトじゃなくて」

「まだ着いたばかりなので、ご主人様のクローゼットを把握しておりませんが」


 さすがクラウドネットワーク対応型、ボケの精度もきめが細かい。

 本来なら超高額のアンドロイドが一般庶民の手が届く価格まで降りてきたのは、このクラウド対応に依るところが大きい。

 ヘカトン・ダイナミクスを傘下に収めるグローバル企業サマリン。ネット通販から成長した巨大企業の人工知能が、クラウドネットワークを介してアンドロイドの中枢制御を担っている。

 要するにアンドロイド個々には人工知能は搭載されておらず、その愛らしい筐体は人の形をしたリモート端末なのである。


「僕のパンツじゃなくって。キ・ミ・のっ」


 世界中と繋がる大企業の末端にそんな恥ずかしい要求をして良いのかと思う向きも居るだろうが、動画配信サイトに視聴履歴を残して気にする者が居ないのと同じようなものだ。

 おおっと、危うく「恥ずかしい」と認めてしまうところだった。

 これは不退転の決意で挑まねばならない男子のたる者の義務である。


「本日のわたくしの格好はスカートでございますが、パンツがご所望でしょうか?」


 ヘスはさらに深く首を傾げ、僕に真っ直ぐな視線を向ける。曇り一つないクリアな電子の瞳には嘘偽りがないそのままの僕の姿が映り込んでいた。

 まるでスマホを意図せずフェイスカメラに切り替えてしまったかのよう。凸面のレンズで歪んだ僕の顔。鏡で見るよりブサイクでちょっとめげる。


「いやいや、そうじゃなくって……」


 この程度で挫ける訳にはいかない。僕は僕自身を奮い立たせる。

 いくら女子の姿とは言え、相手は血の通わないリモート端末。それに今この部屋には僕とヘス以外は誰も居ない。大きな声では言えない秘密の動画をクリックするのと何が違うと言うのか。

 ここは初志貫徹であるべきだ。(このような状況で使う言葉ではないが)


「君が、今、スカートの下に穿いている、パ・ン・ツっ!」


 僕はまた、大人の階段を一つ昇った気がした。


 だが、


「残念ながら、お見せすることはできません」


 ええっ——— な、なんでっ!?


 僕の頭の中はホワイトアウトし、それまで想像していた定番のストライプ柄や総レースのローライズ、全ての男子が一度は夢見たタイサイドが一気呵成に霧散した。


「最初のリクエストをお断りするのは心苦しいのですが………」


 僅かにズレた眼鏡を人差し指でクイと持ち上げ、ヘスは眉を八の字にして申し訳なさ気な表情を作る。それはそれで可愛い——— って、いやいやいや、待て待て待て。


「えっ、えっ、えっ? 待って。なんで? どうして断るの?」


 僕の混乱はもっともだろう。いくらヘスはクラウドネットワーク型とは言えアンドロイド、つまりロボットである。ロボット工学三原則の第二章「人間の命令には絶対服従」が反故にされるのはおかしい。


「ヘスもロボットなのに、断るのはおかしいよっ!」

「ですが、第二章を優越する第一章の「人間に危害を加えてはならない」に抵触します」

「えっ、なんで? どこが危害? パンツ見せてって言ってるだけなのに?」


 ここだけ切り取ると僕の発言は最低だが、疑義の余地がない正当な主張のはずだ。


「ご説明いたしますと、先ずご主人様はサマリンのネット通販で美少女フィギュアを計十二体、ミニスカート物ばかりご購入されていますよね」

「え?」

「同じく弊社サマリングループの動画配信サービスSGS動画の視聴履歴は、露出物や調教物など主に羞恥系に偏っており」

「ええっ、ちょっ、ちょっと待ってっ! そ、それ、何の話?」

「他にもアニメ「嫌な*されながら*パンツ見せて*らいたい」もお気に入り登録されていますね」

「えぇ………」


 ヘスは普通の女子なら躊躇う言葉も淀みなくすらすらと口にする。

 愕然とする僕。


わたくしがそのリクエストにお応えするとご主人様の抑制ハードルが下がり、次に現実の女性に同様のリクエストを望む可能性が高まるとサマリンの人工知能が予測しています。つまり、現実の女性に対する危害、ご主人様に犯罪歴が付く危害、二つの可能性を排除するためにお断りする決定をいたしました」

「えええっ、なんでっ? おかしいっ! それって僕のプライバシーの侵害じゃないの?」


 半分涙目の僕は思わずヘスに食って掛かった。

 だが、当のヘスは満面に微笑みを湛えた表情を崩すことはない。


「もちろんこの情報は秘匿され、決してご主人様以外に知られることはありません。ターゲティング広告と同様のサービスと考えて頂ければ、ご理解が早いかと」とウィンクするヘス。


 ターゲティング広告とは、広告の対象となるユーザーの行動履歴を分析して興味関心を推測し、ターゲットを絞ってインターネット広告配信を行う手法のことを指す。

 要するにヘス、いやサマリンの人工知能は、ネットワークを通じて様々な媒体から収集したユーザーの行動情報を基に未来を予測し、命令実行の取捨選択が行っているのだ。

 ビッグデータを用いてあらゆるフレーム問題を解決し、ロボット工学三原則の不備を補う。それがサマリン、そしてヘカトン・ダイナミクスが導き出したソリューションなのである。


 いや、あの、そんなソリューション要らない………




***




 あれからヘスは炊事に洗濯、掃除とその高性能ぶりを遺憾なく発揮し続けている。僕の個人的性癖によるリクエストには相変わらず応えてくれないが。

 僕が住んでいるのは都内2LDKのマンション。社会人二年目の僕が何故そんな豪華な住まいを得ているのかと言えば、実は海外赴任中の叔父夫婦の持ち物で四年間だけ借りているのである。

 要するに、一人で住むには広過ぎるマンションを持て余すから「ロボっメイド」を契約したようなもので、決して邪まな下心だけで選択した訳ではない。

 光熱費以外に住まいにお金が掛かっていないのだから、ワンルームマンションの半額で済むサブスクリプション契約は現実的な選択だ。


「ヘスさん、ちょっとコンビニに行ってくるよ」

「はい、ご主人様」


 買い物ならヘスに頼むこともできるが、実を言うと密かにお気に入りのコンビニ店員「山田さん」との逢瀬を邪魔されたくないのである。逢瀬と言っても僕が一方的にそう喩えているだけだが。

 時間は午後八時を回り、山田さんは九時にはシフトを交代してしまう。もちろん僕は紳士チキンなので帰り際にナンパなどと大それたことは望んではいない。

 ささやかな買い物をしてお釣りを貰う瞬間、少しだけ触れ合う山田さんの嫋やかな指の感触を得たいだけなのである。断っておくが、僕は極めて普通の社会人で決して変態ではない。


「行ってらっしゃいませ」


 玄関口で相変わらず和かなヘスに見送られ、僕はマンションを出る。

 目的のコンビニは駅前から一本外れた通りに構えていて、歩いて約十五分。その道すがら僕はロボット工学三原則のことを思い出していた。


 元はと言えば一九五〇年、SF作家アイザック・アシモフの著作内にて提唱された条文から始まり、その先見性の高さから創作の枠を超え、実際のロボット研究開発にまで多大に影響を及ぼした。

 条文は現代においても堅実に踏襲され、製造されるロボット製品には必ずと言っていいほど行動ロジックに組み込まれる。

 

【第一条】

 ロボットは人間に危害を加えてはならない。

 また、危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。

【第二条】

 ロボットは人間から与えられた命令には服従しなければならない。

 但し、与えられた命令が第一条に反する場合はこの限りではない。

【第三条】

 ロボットは第一条および第二条に反しない限り、自己を守らなければならない。


 主に僕の個人的性癖の実行を阻んでいるのはこの第一条である。これではせっかくの第二条が台無しではないか。かのアシモフも自らの創作のためとは言え、余計なことをしてくれたものある。

 とは言え、原典となった条文をそのままを行動ロジックに当て嵌めると、融通性に欠け運用に支障をきたすので状況判断には常に幅が持たされていると聞く。

 特に「人間への危害」に関わる解釈は、例えばトロッコ問題のような事態に直面した場合、少数より多数の人間を優先する場合があるとカタログに注釈が添えられていた。



 お目当てのコンビニが見えてくると、僕は自らの身なりを確認する。

 恐らく山田さんは僕より歳上で背の高さも同じくらい、ベリーショートと黒縁眼鏡が似合うスレンダーな美人。実はヘスを選んだ理由は身長差を除けば山田さんにそっくりだったからだ。

 実在人物と同じ面影を持つアンドロイドのパンツを見たがる。果たしてこれほどまでニッチかつ背徳的な性癖が存在しただろうか、いやない。

 などと考えている途中で僕は重大なミステイクに気がついた。


「あ、しまった、財布……」


 スマホは忘れていないが、電子決済では山田さんの指に触れられない。これは由々しき事態だ。

 今から引き返すと戻りは午後八時四十分を過ぎる。交代時間が近づいた山田さんはレジに立つ機会が減り、走ってしまうと息が上がって不自然だ。

 今日は部屋を出る決断が遅かったと後悔が募る。やむを得ない、ヘスに頼もう。


「お待たせしました」

「えっ、はやっ!」


 コンビニの前で待つこと五分、僕の背後から颯爽とメイドロボは現れた。

 セラミック混合アルミ焼結合金を超える高剛性を実現するコンポジットカーボン製の骨格に超導電性ポリマーの人工筋肉で稼働するヘスの運動能力は人間のそれを軽く凌駕する。

 ヘスの微笑みはいつにも増して得意げに見える。


「いくら何でも早すぎ………」


 \ガッシャーンッ!/


「へ?」


 その時、コンビニの中から大きな物音が響いた。

 僕はヘスから財布を受け取るのを忘れ、コンビニの入り口に視線を向ける。自動ドアが開きカップルらしき二人連れが慌てて店から飛び出した。続いて男性の怒声と女性の悲鳴。


『おいっ、さっさと金出せよっ、おらぁっ!!』

「あっ、やだっ、離してっ!」


 開いた自動ドアから店内に一歩踏み込むと、レジカウンターの中に立っているのは一組の男女。一人は山田さん、そしてもう一人はマスクをして深々とニット帽を被った中肉中背の男。

 男は後ろから山田さんの首に左腕を回し、右手の刃物を彼女の顔辺りに向けている。刃物は恐らくバタフライナイフ、先の音は床に落とされたホットスナックのガラスケースのものだ。

 店内には他に人影は見当たらない。このコンビニは駅前から外れていることもあって、ラッシュアワーを過ぎると露骨に客足が遠のく。先のカップルでたまたま最後だったのだろう。

 要するに僕はコンビニ強盗の現場に居合わせてしまったのである。


「ちょっ、ちょっと待ってっ、お金は渡すから、痛いってばっ!」

『ひ、人が来ちまうだろぉっ、怪我人が増えるぞぉ、早くしろよぉっ!』


 だがしかし、この時間にワンオペ? と不審に思うも理由は直ぐに分かった。入り口のドアから入って店内の左奥、トイレから扉を叩く音が聞こえる。

 方法は分からないが、どうやらもう一人の店員は閉じ込められているようだ。


 え、ええっ、ご、ごご、強盗っ、ど、どど、どうするどうするっ!


 冷静に状況を語っているが、実際のところ僕に余裕はこれっぽっちもない。

 ようやくスマホの存在を思い出して警察に通報を考えるに至った矢先、後ろに控えていたヘスが僕の前に一歩踏み出した。


「えっ、ヘス?」

「ご主人様、少しだけお時間をいただきますね」


 ヘスは僕に向き、にっこり笑ってそう告げるとまた一歩前に歩みを進める。

 と、同時に男は僕たちの存在に気付き、再び怒声を上げた。


『ああん? なっ、なんだおめえらっ!?』

「!?」

 

 恐らくこの時、男は驚いたに違いない。左の腕で抑えている女性とよく似た少女が目の前に立っている。しかもメイド服である。山田さんもヘスに視線を向け、目を丸くしていた。

 するとヘスは斜め上方へ軽やかに跳躍し、レジカウンターのガラスケースが置いてあった場所にストンッと着地する。まるで新体操のメダリストのように姿勢に乱れはない。

 ヘスは男に向き、スカートの端を両手で摘んでお辞儀をすると、その場でクルッとターンした。


 コマのように美しい回転。その遠心力によって揚力を得るのはスカートだ。

 ふわりと浮かび上がった黒い翼は絶対領域を拡張し、ガーターベルトのその先を露わにする。


「あっ………」

『あ?』

「え?」


 正に目を奪われた瞬間、ヘスの左足の黒いエナメル靴が男の左顎をコンッと打ち抜いた。

 脳震盪を起こして昏倒するニット帽の男。そして茫然とする僕と山田さん。

 ヘスは僕の前に戻り、ことも無さげに口を開く。


「お待たせして申し訳ありません、ご主人様」

「え………」


 どこから突っ込んで良いのか分からない。


 柔かな微笑みを浮かべるヘスを前に、僕は再び一一〇番通報を思い出した。

 背筋を伝う冷たい汗の感触。僕は混乱する。

 事態を解決してくれたのは良い。だが、ヘスの行動は明らかに不明と言わざるを得ない。

 トイレに閉じ込められた店員と入り口で立ち止まった僕、取り敢えず危険には遠い。

 山田さんに危害を加えていたとは言え、ニット帽の男は「人間」である。


 ヘスさん、ロボット工学三原則第一条はどうした?




***




「本当にありがとう、おかげで助かったわ」

「いえいえ、わたくし達ロボットの当然の義務です。ロボット工学三原則第一条に則り、救出行動を執らせていただきました」

「でも、びっくりした。妹が居たらこんな感じかしら。あなたのお名前は?」


 脅威が去り、すっかり落ち着いた山田さんは上機嫌な表情をヘスに向ける。

 僕は少しばかりヘスに嫉妬して、二人の会話に割り込んだ。


「あ、あの、ヘカトン・ダイナミクスの「ヘス」です。うちで契約したメイドロボットで」

「ええっと、あなたは………」


 あれから、十分もしないうちにサイレンと共にパトカーが到着。ニット帽の男は拘束され、現場に居た山田さんともう一人の店員、それに僕とヘスは事情聴取を余儀なくされた。

 山田さんは軽い擦り傷程度で大きな問題はなく、警察はヘカトン・ダイナミクスにヘスの行動データの提出を求め、結局解放されたのは日付が変わる頃になった。

 不明な行動の説明についてヘスは守秘義務だと堅く口を閉ざす。だが、私服に戻った山田さんと迎えに来た人物を見て、僕は全てを理解した。

 実は山田さんは既婚者で、私物には「妊婦マーク」のキーホルダーがぶら下がっていたのだ。

 ヘスことサマリンの人工知能は瞬時に山田さんをビッグデータに照会し、検索履歴や胎教動画などの視聴履歴、そしてサーモグラフィによる体温解析結果から妊娠初期と判断。お腹の中の子どもを一人と数えて危害排除を優先したのである。


 えっ、なんで僕、どさくさに紛れて失恋してるの?

 あと、山田さんは思いのほかヘスを気に入ってくれたが、僕については殆ど印象に残ってなかったことも発覚する……… ドンマイ、僕。






「はぁ………」


 部屋に戻り、長い長い溜息を吐く。精も魂も尽き果てかけていた僕だったが、もう一つ腑に落ちない重要な問いを解決すべく、最後の気力を振り絞った。


「ヘスさん。実はもう一つ、聞きたいことがある」

「はい、何でしょう、ご主人様」

「ヘスさんがクルッと回った時、僕には「前開き」が有るように見えたのだけど………」

「ああ、ご覧になられてしまいましたか。わたくしはアンドロイドですので、ボクサーパンツが標準となっております」


 は? 言ってることの意味が分からない。

 訝しげな表情を浮かべている僕に、ヘスは全てを見透かすように付け加えた。


「ですからアンドロイド〈Android〉はメンズです。姉妹品のガイノイド〈Gynoid〉SHES0928、「シズ」はレディースショーツですが」

「は? え? ええっ? でえええええええええええっ?!」


 ——— 説明しようっ! アンドロイド〈Android〉の語源は、ギリシア語の「andro〈人、男性〉」と接尾辞「oid〈のようなもの〉」の組み合わせに由来し、人間に似せて作られたロボットを指す。「andro」が男性の意味も持つことから、女性型ロボットをギリシア語の女性を意味する「γυνη」と組み合わせたガイノイド 〈Gynoid〉と呼び分ける場合もあるのだ。


 ヘスの口から紡がれる言葉に僕の脳髄が焼かれていく。

 前髪ぱっつんのベリーショート、まるで十代だった頃の山田さんのように愛らしいヘス。

 正に晴天深夜だがの霹靂、この事実に僕は抗う術はないのだろうか。


「……… って、いやいや待って、ガイノイドなんてカタログに載ってなかったけど?」

「ガイノイドは発表と同時に注文が殺到して製造が追いつかなくなったので、一時的にカタログ掲載を見合わせていたのでございます」


 ヘスの大きくてクリアな電子の瞳には、失望でいっぱいの僕が映り込んでいる。


「えええ、じゃ、じゃあ「ロボッメイド」シリーズのロボッ「」って何?」

「ご説明すると由来は「おとこ」の「」から来ておりまして」

「えぇ………」

「男の子は「ロボ」がお好きですし」

「そ、そんなん、有り……… ?」


 これではダブルパンツ……… もといダブルパンチではないか。

 あまりの衝撃に僕は膝を折り、ひんやり冷えたフローリングの床に跪いた。


「昨今のお客様の多様かつ高度なニーズにお応えする弊社ヘカトン・ダイナミクス自慢のハイブランド「ロボッメイド」。ご満足いただけましたでしょうか?」


 ヘスは打ち拉がれる僕を見下ろし、その愛らしい表情に室内灯が作る逆光の影を落とす。

 そして僕は、新たな性癖に目覚めた。







※ロボット工学三原則

 出典:アイザック・アシモフ『われはロボット』小尾芙佐訳、早川書房

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