おまけ
「…………」
ぶすっとした顔のクレア。その視線の先には厨房に立つユウが。
「なによ、ユウったら……私がいるってのに、あんなにデレデレしちゃって……!」
ブツブツと独り言を呟きながら、こっそりと厨房を覗き見する姿は少しばかり、いや、かなり不審者のそれだった。
「……クレア、そこで何してるんデスか?」
「ひゃあ! ……なんだ、先生じゃないの、驚かさないでよ!」
「驚いたのはコッチの台詞デス! クレアが不審者ムーヴかましてるから声かけたのに、あんな素っ頓狂な叫び声出されたこっちの身にもなるデス!」
「う……そんな変な声だった? 私?」
先生はジトっとした目でうんうんと頷く。その態度にクレアは思わずシュンとしてしまう…………が、チラと視線が向こうへと動く。
「一体何が……ああ、そういう事デスか」
「な、何でもないわよ! さあ先生、向こうに行きましょう? そうそう、レフィオーネの事で相談が……」
「まあまあ、乙女の悩みはもちろんこの私にも分かるデスよー! 全く、クレアは
クレアが見ていた方、厨房にいたのはユウ……と、今回の調査船に調理師としてホワイトスワンへ搭乗している女性スタッフだった。
「ち、違うわよ?! 私はそんな全然……!」
「普段はクールなクレアも、ユウが絡むと形無しデス。ぶっちゃけユウとあの女の子が仲良くいるのが気にくわないんデスよね?」
「べっ、別に?! ユウがかわいい女の子と話してようが?! 二人で楽しそうに料理してようが?! 本人の勝手だし?!?!」
「…………分かりやす過ぎデスよ、クレア……見てるコッチがツラくなってきたデス」
「…………先生~! なんなのユウは! あんな風に楽しそうにして~! 私にはもう飽きちゃったっていうの~?!」
「ゴフゥ?!」
突然、涙目になりながら先生に抱きつくクレア。しかし二人の身長差は大きく、先生は強烈な体当たりにも等しい衝撃をその身に受ける。
「まぁまぁ……ユウの事だから大丈夫デス、クレアの心配しすぎなだけデス」
「うぅ……本当にそうかしら……?」
先生の部屋。メソメソしているクレアをなんとか宥める先生の姿がそこにはあった。
「ユウっていつも
「あーあー! もう、鼻を拭くデス!」
「うう……ありがと、先生……」
クレアの端正な顔は今や涙で目元は腫れ、何度も鼻をかんだため赤くなっている。
(クレア……前から思ってたデスけど、こいつかなり嫉妬深いデス……)
先生は以前、ユウと話していた時に
「だから、ユウに限って
「……本当かしら……?」
「ま、オマエの為に元の世界へと戻る選択肢を切るような奴デス。なかなかいないデスよ? 惚れた女を選んで、故郷や家族の下へ帰れなくても良いっていうような男は」
「…………」
「それに安心するデス。もしクレアを本気で悲しませるようなことになったら、この私がユウにオシオキしてやるデス。それはもう、男としてこの世に生まれた事を後悔するくらい……」
「あ、クレア! やっぱりここにいた!」
ガチャリと開けられた扉の向こう、そこにはユウが。
「ユ、ユウっ?!」
「ちょいとユウ君や。レディの部屋をノックもせずに開けるとはいい度胸してるデス。修正してやるデスからそこで歯を食いしばるデス」
「あ、先生もどうです? 結構いい感じに出来上がったんですよ!」
「え? 普通にスルーするデスか? 最近私への扱いが雑になってないデス?」
と、ユウがその手に持っていたのはちょっと大きめのお皿だった。持ち運び用の蓋を開けると、そこには……。
「……わぁ、美味しそう!」
「卵たっぷりのプリン! クリームは手にはいなかったけど、今回は上手くいったんだ!」
小さめの容器には黄色くふわふわしたプリンが収まっていた。少しばかり甘くて良い香りがここまで漂ってくる。
「いやぁ、昔と違って今は厨房に入るのも難しくてさ。材料も特別に分けて貰えるようにずっと交渉してたんだ」
「え……? じゃあここ最近、あの子と仲良くしてたのって……?」
「ああ、クレアに何か作ってあげたいって話をしたら協力してくれるって。それにプリンのレシピを知ってたから教わってたんだ。それがどうかした?」
「……ううん、なんでもないわ! さ、ユウ! 一緒に食べましょ!」
さっきまでも沈痛な面持ちは一体どこへやら、急いでぐしょぐしょの顔を拭ったクレアはユウと腕を組みながら部屋をルンルン気分で出ていく。結局なんてことはない、先生の言った通りにクレアの考え過ぎなだけだったのだ。
「……じゃあ、なんデスか? 私は二人のノロケをただただ見せつけられたっていうわけデスか?」
あとに残された先生は無表情のまま、しばらく虚空を眺め続けたという…………。
OVA版天涯のアルヴァリス~未開大陸踏破編~ 二周年記念特別短編 すとらいふ @strife
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます