第17話 エピローグ

長年続いた戦争も終わって、七十年が過ぎた。

カールは寝室で上半身をたててベッドで寝ていた。天井の点々を見つめるのにも飽きたが、それ以外のものにも飽きている。恐らく臨終を迎えるこのベッドは、死体じゃなければぐっすりと眠れない。


丁度その頃、町のどこかで、出かけていた誰かが家に帰った時、初めて自分のロボットが躓く所を見た。

壁にもたれ掛かるその姿は疲れ果てた爺さんのものだった。

鈍い手には冷蔵庫に置いてあったプリンがある。ロボットは食べないのに、人間用のお菓子を持っていた。

その手はゆっくりと上がり、太陽を隔てても眩しい存在であるプリンを空へと捧げた。

手を愛しく見つめるロボットは静かに泣く。

せめて、最後の晩餐だけは甘い誘惑にしたかった。

だが、その願いは叶わぬまま、だらりと垂れ下がる手からプリンは落ちた。


カールのそばに置いてあった電話が鳴る。

見向きもせずにそれを見送る。

鳴り止んだとたんにまた鳴る。

これもまた無視する。

鳴り止まない電話に手をかざす素振りを全く見せない。

それでも反応はあった。

カールは息を吐いたら、また息をせずにそのままじっとした。

死を待っている。

だんだん迫り来る肺の痛みがあっても、それを顔に出さない。

どれほど脳が「息をしろ」と命令をしても聞かない。

近づいてくる死をカールは歓迎した。


叫び続ける電話は、拾われないままでいる。



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カールのロボット 芳村アンドレイ @yoshimura_andorei

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