第3話 詐欺の電話
ベルの音。
遠いその音で目が覚めた。
ただ、寝起きは悪いから電話まで行くのが無理難題だ。
惰眠に戻ろう。
……うるさい。
いつまで鳴らすんだよ。
四十回は数えたぞ。
ぞんざいにしちゃダメな用件なのかな。
……なかなか鳴り止まない。
急ぎの電話が来るようなことって、あったっけ?
係累は死に絶えて、完全孤独老人の俺に?
人間と話してすらいないよ、近頃は。
果てしなくベルは続く。
「悔しいけど根負けだ、出るよ」
漸く布団から這い出ると、亀の歩みで電話の方まで。
「出ますよ」
よいしょ、と勢いを付けて受話器を持つ。
「つまらない内容だったら……」
「ラッキーをやっと捕まえましたね」
……寝直すか。
「勘弁して下さいよ、切らないで下さい!」
「いったい何の冗談だよ」
「よかった、話を聞いて下さい」
「いいか、俺は忙しいんだ」
「だとしても損はさせませんから」
「楽に損しない話ってのは多目に見ても、詐欺……」
「ギブ・アンド・テイクです!」
すっきり何もない部屋。
「やっぱり詐欺だろ」
「ろくでもないこと言わないで!」
「でも俺に、ギブするものは何もない」
「いや、あります」
「すべからく、ない」
いい加減切ろう。
「うっかりチャンスを逃さないで下さい!」
「いやいや」
やっぱり切ろう。
「嘘じゃないんですよ」
「よし、概要を言ってみろ」
「老人保険って知ってますか?」
「辛うじて聞いたことはあるが」
「頑張って思い出して!」
適当な感じだな、こいつは。
腹の中は真っ黒、言葉はペラペラってところか。
「かなり今注目されてる保険です、それに入って欲しいんですよ」
「よく分からねぇ、どこがギブ・アンド・テイクなんだ?」
「だからですね、掛け金と保険金から計算すると、儲かるんですよ」
「要するに?」
「人間が死ぬとお金が払われる、あなたの名義でその、お金を増やすのをさせて欲しいんです」
すっきり分かった。
たまたまじゃない、俺が天涯孤独だから良い訳だ。
「だから俺か」
カラクリは分かった、だが。
「俄然俺の命が心配になるな」
なにせ生きてるだけ掛け金が必要だ。
「だからって殺したりしません、そこもリサーチ済です」
すなわち俺はもうすぐ死ぬと読んでる訳か。
簡単に死んでたまるものか。
「かかって来た電話で長話して悪かったが、俺はその話には乗れない」
「いつでもその気になったら連絡下さい」
「いや、しないよ」
余韻が妙な感じで残った。
多分もうすぐ死ぬと言われたからだ。
騙すなら気持ちよく騙して欲しいものだ。
大事な未来が切り詰められた気がした。
たった一人でも俺は生きてる、生きてるんだ。
だから、そっとしといてくれ。
連絡はもう、要らん。
しりとりに縛られた世界 真花 @kawapsyc
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