しりとりに縛られた世界

真花

第1話 夫婦の危機

 妻の待つ家に夫は深夜に帰宅した。

「ただいま」

「またこんな時間に帰って来て。一体何をやってたの?」

「飲み会。飲み会だよ」

「よくも抜け抜けとそんな風にしてられるわね」

「寝ててもよかったのに」

「人間気がかりがあると寝れないわ」

「分かるけど、飲み会なんだって」

ていのいい言い訳よね、信じると思う?」

「嘘は言ってない」

「いや、絶対に飲み会じゃない」

「いつものメンバーだよ。しょうがなく付き合いで」

「デートじゃないの?」

「飲み会ったら飲み会だし」

「証拠は?」

「は?」

「は? じゃなくて証拠!」

「困ったな、みんなもう家だよ。……じゃあ、木村さんに電話する?」

『留守番電話です。ご用の方はピーッと言う発信音の後に……』

「逃げ切れると思ってるの? これで!?」

「でも本当に飲み会……」

「いい加減にして! 浮気だって知ってるんだから!」

「乱暴に結論するなよ」

「容赦しないから!」

「楽にしなよ、もう少し、俺は無実なんだし」

「信じられない」

「いい加減にするのは君の方だと思うんだけど」

「どの口が言うか!」

「勘弁してくれよ、時間考えてよ、明日も仕事なんだ、少しは空気読め!」

 メールが届く音。

「とってもいいタイミングね、見せてちょうだい」

 未だかつてないほどの汗を流す夫。

「取り敢えず俺が見てから、そうだろ」

 ろくすっぽ夫の弁も聞かずに携帯を分捕る妻。

「待って!」

「てめーは、この大嘘吐きが!」

 ガラスに直撃した携帯、ガシャンと割れる音。

 飛び上がる夫。

 遠くでガラスの破片にまみれる携帯の画面に記された言葉。

『バラしちゃうぞ、奥さんに。でも、今夜も最高だった。大好き』

 危機が二人の間に溢れてくる、夫、人生最大のピンチの予感。



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