情念など一切感じさせぬ淡々とした言葉で綴られるのは、美しい武蔵の野の姿と、そこに生きるもの達の息遣い。素朴でありながら、少しぞくりとさせられる結末は、「遠野物語」などの民間伝承好きにはたまらない。そう言えば、幼い頃、野山や水辺で遊んでいると、不思議なものの存在を感じたこともあったっけ……と遠い昔を懐かしく思い出した。
自然をじっと見つめる作者のまなざしに引き込まれて読み進めていくと、武蔵野の野で寄り道したような不思議な感覚に包まれます。
子供の間違いを正す厳しさと、何食わぬ顔でまんじゅうを頬張るユーモラスな姿。命を守る優しさと、命を奪う残酷さ。猛威と恩恵が同居する、善悪などという人間の物差しでははかれない存在。作者の自然に対する豊富な知識と、畏敬の念がとても感じられる力作です。まだ読んでいない方は、是非読んでみてください。面白いです。