1行目を読み始めてすぐに、時間の流れが変わりました。焦るがゆえに、心の内のスピードと周囲のスピードがちぐはぐになっていく覚束なさが、ヒヤリ、ぞくり――と、日本ならではのじっとりとした怖さを加速させます。読み終わった後、現実に戻って来た…とハッとしました。武蔵の野にいるという「沼すべり」に、私もきっと、1行目を読んだ瞬間から出会ってしまったのでしょうね。ホラーの名手による短編です。文句なしに面白いです。
武蔵野の境界にある小さな沼が舞台の伝奇的小説。 沼は小さい分、深い。そこでは蛙が産卵し、オタマジャクシが育つ。 その沼には「沼すべり」と呼ばれる怪異があった。好奇心旺盛な主人公は、干上がった沼なら大丈夫だと言うが……。 まさにこの文学賞の為の一品で、こういう小説を待っていました。 この作品に出会えて嬉しかたです。 是非、御一読下さい。