他者の期待を背負う存在がヒーローであるのなら

 肌の色を自由自在に変えることのできる男と、彼を取材しにきた人のお話。
 硬質な鋭さを感じるシリアスな物語です。設定的な面ではSFや現代ファンタジーのような味わいも楽しめますが、なるほどジャンルの通りの『現代ドラマ』といった趣の作品。
 舞台はとある国の小さな村、〝カメムシ男〟と呼ばれる不思議な擬態能力を持った男と、彼にインタビューする主人公。もちろん彼の能力について取材しているのですが、でも重要なのは(少なくともその光景を通じて読み手が見ているものは)この村とそこに伝わる伝承です。
 カメムシ男とは彼自身のことであると同時に彼の先祖のことでもあり、故に村の英雄として語り継がれているものの、でもその実態は——という、この堅牢な設定とその語られ方、読み手の興味をグイグイ引っ張ってくれる情報の出し引きが、実に秀逸というかもう普通にのめり込んでしまいました。
 これ以上はネタバレになりそうなので内容については語りませんが、結末までたどり着いたときのカタルシスが最高でした。細やかな伏線がひとつひとつ回収されて、その心地よさが主人公の心情への共感を強める、という、この巧みな物語設計と語りの手際。すんごいです。
 個人的には作品を通じて語られる主題というか、「ヒーローというもの(またはヒーローでないもの)」の描かれ方が好きです。登場人物個人を描写する中で、でももっとも強く描き出されるのはその属している集団。群の中にこそ英雄が生まれうるのだと、それを踏まえた上での結びの独白。ヒーローとは。作品そのものが投げかけてくる問いが、読後にしっかり余韻となって響く、堅牢で誠実な物語でした。

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