第10話 悪魔界にて。

 僕は軽い目眩を伴いながら周りを見回す。

 そこは薄暗く湿っぽい淀んだ空気に満ちた石壁作りの部屋だった。


「ようこそ!我が居城に〜」と興奮気味の男の声が頭に響く。

 それはルシファの声だ。


「いろいろと手続きが面倒だったがここまで来たのだな〜」

「うーむ感激」


 声の主が居るであろう方向を向くとルシファが満面の笑みで足首をリズミカルに

 ルンルンしながら大きな椅子に座っている。


「よくぞ、お使いを果たしたエミリアよ!あとでご褒美をあげるからの!」


 エミリアもゴスロリ調のドレス姿で横に立ち〈ニコニコ〉笑顔。


 さてさて、兎沙戯うさぎくん。

 君と契約してこの悪魔界に連れてきた訳を説明しよう。


 ただこの陰気な部屋で満面の笑みを見る鶴友次郎には不吉な思い、絶望感しか

 無い。


 兎沙戯うさぎの落ち込みまくる気持ちを感じてルシファが話す。

「そうかそうか、部屋が悪い部屋が…。悪魔が落ち着く雰囲気は人間には逆か〜」


「エミリア、大広間に案内しなさい」

「はーい、お爺様!」

「付いて来て兎沙戯うさぎちゃん」


 そう言われて従うしか無い僕はエミリアの後を付いて行く。

 歩きながらエミリアが説明する。

 この陰気な部屋は地下3階の部屋のようで部屋の扉を開けると階段が上階へと

 続いている。


 とめどもなく説明をしてくれるエミリア。


 どうせとんでもない事しか無いだろうと諦め境地の僕には全然言葉が入って来

 ない。

 ただ、悪魔界という位だから魔法のような力でその大広間に一っ飛び出来ない

 のだろうか。

 もう20階目の表示の階段を登り続けている。

 どこまで登るのか、恐々聞いてみる。


「そうね、666階だからあと626階登れば到着よ!」


 なんと〜嘘でしょ嘘でしょ。

 多分死んでしまうよコリャ〜。


 でも死んでいない生身の人間のままとの話だけど疲れないんだよね。

 ペースも変わりなくエミリアと淡々と階段を登る。


 時間なんて分からないからそんな尺度も無くただ666階の大広間に着いた。


 僕らが登っていた階段は螺旋式の階段だけの塔で各階ごとに扉があり、その扉の

 先にはフロアがあるそうで大広間に入る扉を開けると荘厳で悍ましい雰囲気のエ

 ントランスがあり、その先にどデカイ扉がある。

 どう見てもこの大扉は僕やエミリアの背丈からして開けることは出来なさそうだ。


 扉には大きなガマ蛙の彫刻が全面に彫り込まれておりそれは美術的にも途方も無

 い調度細工である事が僕にも分かる。

 エミリアが「開けて!」と言うと、

 〈ゲロゲ〜ロゲロゲロ〉と扉のガマ蛙が一斉に鳴いて扉が自然に開く。

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